2019/7/15, Mon.

ごらん ぼくは溶けてゆく ノーチラス号の澪のように ぼくはひろがる (『岩田宏詩集成』書肆山田、二〇一四年、27; 「その夜の劇場の」; 『独裁』) * 気のくるった狂人のように純粋なもの 聖書とおなじに淫猥で とりかえしのつかぬほど太いもの 水晶よりも…

2019/7/14, Sun.

二人とも劇場の音と扉の外側 そこのソファーで息を殺したのだが ふるえる長針さえ短針にのしかかり ポイントから激しく尾灯がすさり それから襖や唐紙のなかで ぼくらがひそかにラジオを操る 荒れ果てて美しい女の声 ほら 約束は木の葉 足跡は絶望だよ (『…

2019/7/13, Sat.

小林 よく知られているように、坂本龍一さんは、東日本大震災で壊れたピアノを引き上げて、その壊れたピアノを、調律などしないでそのまま弾くということをやってますよね。西欧的な厳密な関係性の音楽をつくるのではなく、また、竹のなかを吹きすぎる息の音…

2019/7/12, Fri.

小林 やっぱり世界のなかに存在しているということですよね。世界内存在、あるいは世界に帰属している存在として。でも同時に、垂直に世界と向かいあってもいるんです。それが人間です。直立するというのは根源的なこと。この世界は、138億光年の広がりをも…

2019/7/11, Thu.

言葉をまず肉体のものにする。どもりは同じ繰りかえしをすることはできない。いつでも新しい燃料で言葉のロケットを発射しなければならない。月に当るか星へ飛ぶのか、そんなことは知らない。飛べばなんとかなるのである。ぼくらにはおなじように聴えても、…

2019/7/10, Wed.

一枚の鏡は壊れて、碎[くだ]かれた破片のひとつ一つに異なった貌[かお]が映しだされている。もはや、ただ一枚の鏡に自分の像を見ることはできない。そして、壊れた鏡はまた元のようにならない。(/)統合という理念、その全人的要請は、安全無害な中和状態…

2019/7/9, Tue.

そうであれば、21世紀に入ってすでに20年近い時間が経過し、しかもこの間に、人類の文化そのものが、グローバリゼーションであれ、情報革命であれ、また地球環境変化であれ、途方もない規模の大変化の時代へと突入してしまった現在において、問題は、――「ジ…

2019/7/8, Mon.

小林 となると、近代的な歴史観ってなにかと考えなくちゃいけなくなる。当然ながら、近代が歴史をもたらしたときの最大のポイントは国家だと思うんです。国家は前からあったろうって言われるかもしれないけれども、そうではなくて、近代においてはじめて国家…

2019/7/7, Sun.

この「反省」という「こころ」の構造、これは、人間であれば、すなわち(動物とは異なって)(自然)言語によって構造化された「こころ」という意味では、人間に普遍的な構造であるとも言えるのですが、しかし同時に、その構造を極限化し、他のあらゆる「こ…

2019/7/6, Sat.

(……)みずからの問いを練り上げていくなかで、丸山はなにを考えようとしたのでしょうか。文中にある「現実の事態に対する政治的決断[﹅5]」という言葉に注目してみましょう。カール・シュミットをよく読んでいた丸山ですから、例外状態における主権者の決断…

2019/7/5, Fri.

中島 (……)『荘子』のなかに渾沌の物語がありますね。北と南の帝王を歓待する神です。歓待してあげたお礼に7つの穴を空けられて、死ぬんです。ところがその渾沌にはもうひとつの話があって、『山海経[せんがいきょう]』(紀元前4~3世紀)というテクストに…

2019/7/4, Thu.

小林 「自由」に憧れるのは、自分の存在という拘束性を解消したいという人間的な欲望の究極です。人間にとっての最終的な目標はなにかと言えば、わたし流の考え方だけれど、ただひとつ、自分が存在していることの重みを解消することです。ただ、これはあとで…

2019/7/3, Wed.

小林 神仏習合の神というのは神道ですけれど、神道はなにかというと、簡単に言えば「土地」なんですよね。土地におわす神。それに対してどう儀礼を捧げるか。儀礼を通して土地の神と安全な関係を保つという、これが神道にみなぎっている原初的な考えだと思い…

2019/7/2, Tue.

しかも、「からだ」は、「世界」という視点に立って見るならば、日本文化の独自性がもっとも強く立ち現れてくる次元であることはまちがいない。柔道ひとつを取ってみても、これほど世界化した日本文化はないかもしれないと言うべきでしょうし、柔道ほどの世…

2019/7/1, Mon.

カスリスはこの2人の対照のために、より具体的な例を挙げています。それが「雨が降っている」という命題です。この命題は、論理実証主義者であれば、英語で「It is raining」といおうが、ドイツ語で「Es regnet」といおうが、論理的には同値となり、それ以上…

2019/6/30, Sun.

まずは歌からはじめよう。なんらかの感受性をもって歌を読んだことのある人であれば、すでに言葉に固有の力を知っている。歌の言葉が表現するのは、歌人、読者、主題が相互に応答しあう領域における調和である。歌を書いたことのある人であれば、もしくは学…

2019/6/29, Sat.

小林 ヨーロッパの哲学は全部、命題ベースで、命題は述語が関係を記述しているのですが、複合語は関係を明示することなく、名と名を直接、結びつけてしまう。そこには、述語関係を捨てちゃった超論理みたいなものがある。そのように「即にして密なる」関係、…

谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』青土社、一九七五年

谷川俊太郎『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』青土社、一九七五年 表題作の三章――「小田実に」と付されている――の冒頭、「総理大臣ひとりを責めたって無駄さ/彼は象徴にすらなれやしない/きみの大阪弁は永遠だけど/総理大臣はすぐ代る」といっ…

2019/6/28, Fri.

漢字と仮名の二重性は、日本文化にとっては本質的な問題です。たとえばそれは、『古今集』の「序」が、 やまと歌は 人の心を種として よろづの言の葉とぞなれりける とはじまる「仮名序」(紀貫之)と、 夫和歌者、託其根於心地、発其華於詞林者也 それ、和…

鈴木正枝『そこに月があったということに』書肆子午線、二〇一六年

鈴木正枝『そこに月があったということに』書肆子午線、二〇一六年 四篇目、「去りゆくもの」で「私」と喫茶店でたびたび会っていた「K」――「僕たちという言い方をとうとうしなかった」「K」――は死んだと告げられる。また、冒頭の「隠し事」では、「遠い町の…

2019/6/27, Thu.

では、人はどのように存在しているのか。これは仏教の伝統的な考え方からすれば、「身口意」ということになる。「からだ・ことば・こころ」と言っておきましょうか。この3つの次元における「業」(カルマですね)が、地上的人間存在の核であるということにな…

2019/6/26, Wed.

小林 それはまさにそのとおりなので、「感覚的」と言ったときに、一番大きな誤解は、われわれが常に、もちろんいろんなものを知覚し、感覚しているんだけれども、その感覚が、多くの場合は習慣によって統御されているわけです、かならずね。感覚はすでにつく…

2019/6/25, Tue.

小林 「うつす」ということをさっき言いましたよね。もし日本文化のキーワードの動詞をもうひとつ挙げるとすると、それは、――わたしの先生でもあった建築家の横山正さんから学んだことですが――「よる」かなあ。「寄る」であり「依る」であり。インティマシー…

2019/6/24, Mon.

中島 いまおっしゃったように、インティマシーの原型は母子密着の状態だろうと、わたしも思います。ところが、カスリスさんに言わせると、インティマシーの定義は、「親友に自分の内奥のものを伝えることなんだ」と言うわけです。 小林 すばらしい! 中島 こ…

2019/6/23, Sun.

中島 (……)おそらく日本語も、空海の時代の日本語に比べると相当変わってきている。それにもかかわらず、いまおっしゃったような構造的な問題が残っているわけです。よく日本は関係性を中心とする考え方をしがちなところだと言いますが、わたしはその考えは…

2019/6/22, Sat.

小林 ここに中島さんとわたしに共通する、そして他の人たちと少し違うところがあると思うのですが、それは、われわれは空海を密教の思想家として見るよりは、「声」と「文字」と、そして「実相」という、この3つの根本的問題に手をつけてしまった人、そして…

2019/6/21, Fri.

だが、まさに言うは易しです。自分がそのなかに浸かっている文化は一般的な論理の水準で他者に語ることができるようには認識されていません。生きた文化は、前意識、無意識の次元に浸透して組織されているからで、その人には「あたりまえ」のことであっても…

2019/6/20, Thu.

妻はぐっすり眠っている。 ゲイブリエルは片肘をつき、妻のもつれた髪と開き加減の口を憤りもなくしばし見つめ、深い寝息を聞いていた。そうか、そんなロマンスの過去があったのだ。一人の男がこの女のために死んだ。夫たる自分がこの女の人生でなんとも哀れ…

2019/6/19, Wed.

一羽の太った焦茶の鵞鳥がテーブルの端で横になり、もう一方の端には、パセリを茎ごとちらした皺紙[しぼがみ]の上に豚腿がどでんと置かれ、これは皮をむいてパンくずをふりかけ、脛には上手に仕上げた紙の襞飾りが巻きつけてあり、その脇には薬味の載った牛…

2019/6/18, Tue.

ダフィー氏は肉体や精神の不調を予知させるものをことごとく忌み嫌った。中世の医者ならば土星気質と診断したであろう。顔は、これまで過した年月をくまなく物語り、ダブリンの街路の焦茶色を呈している。長い大きめの頭はかさかさした黒い髪、黄褐色の口髭…