2016/10/1, Sat.

起床は一〇時五五分だったらしい――まどろみのなかで、張りのあって明朗な鳥の鳴き交わしと、川向こうかどこかから渡ってくる、幼稚園で行われているらしき運動会の音声を聞いた。夢は、のちにメモした時に印象に残っていたものとしてはまず、どぎついような性的なイメージがあった――裸の女性が、脚を大きくひらくとともにその性器を指で広げて晒し、こちらに見せつけているというものである。しかし、起きた時にも淫夢の感触はなく、性的な興奮を得た気配も見られなかった。もう一つには、学校の昇降口、下駄箱の周りで何やら右往左往しており、失敗をして気まずく思っているような記憶があった。それがその失敗だったのかは不明だが、借りた靴下を履いていたところ、見下ろしてふと気付くと、薬指のあたりの布が擦り切れるように薄くなり、いまにも穴が空きそうになっていて、爪を切っていなかったからだと悔やんだ覚えもあった。意識がはっきりとしたあと、例によって携帯電話を取って一時間を潰してしまったが、そのあいだも運動会の音声は届いており、朗らかな女性のアナウンスが競技者を応援していた。夜更かしのためか、鼻水がよく出る朝だった。正午前になると起きあがって鼻を掃除し、久しぶりに朝の瞑想を怠けず行った。窓外の近くで鳴き遊んでいる鳥の声を耳に取り入れて一〇分、その後上階に行った。母親はこの日も出かけており、メモには買い物ほか、とあった。食事はよく覚えていないが、ハムエッグを焼いたのだと思う。確か風呂は食後早々に洗っておき、室に帰ると、相変わらず鼻水は出て、頭痛らしきものも僅かに滲んでいた。二時くらいまでまた時間を潰したあと、読書を始めた――マルセル・プルースト/鈴木道彦訳『失われた時を求めて 7 第四篇 ソドムとゴモラⅠ』である。いつも通り仰向けになって脚をほぐしながら読んでいたのだが、姿勢を変えたりちょっと起きあがったりする時に、なんとなく身体がだるいようで、風邪を引いたかのような気配が少々あった。それで、今秋初めてのことになるが、ジャージの上着を纏っておき、四時前まで物語のなかを進んだ。確かその頃には母親が帰ってきていたのではないか――上階に行って、今日は夜から職場で会議、その後は飲み会であると告げておき、室に帰ってコンピューターの前に立った。書き物を始めようとキーボードに触れたところで、市内に夕刻を知らせる鐘が鳴り響いたのだが、瞬時に意外の感を覚えて時刻を見ると、四時である――それで、五時に鳴っていたのが一〇月になって一時間早まったのだな、とささやかなことに気付いた。そうして、Robert Glasper Experiment『Black Radio』を掛けて、書き物に入った――まずは九月二九日の記事である。こちらは二〇分で早々と済ませ、翌三〇日のものに入った――立川に外出した上に、スカイプで他人と四時間も話した日なので、長くなることは目に見えていた。続けて流した音楽は、Marc Ribot's Shrek『Yo! I Killed Your God』なのだが、これは最後まで聞かず半分も行かないうちに売却と判断して、Gyan Riley『Stream of Gratitude』に移した。後者はクラシックギターによる独奏作品で、そちらの方面には馴染みがないものの、気に入られたので残すことにして、打鍵を続けて六時である。四三〇〇字を書いても記述のなかの自分はまだ立川から帰っていなかったが、そろそろ支度を始めなくてはと中断し、軽く瞑想をしてから上に行った。便所に入ると、外から秋虫の声が強く響いており、まっすぐ揺れずに持続して広く拡散するその金属的な声音に、まるで夜鳴く蟬のような、と自然と連想が働いて、遅れて耳を寄せてみると、確かにアブラゼミのような声音に聞こえないこともなかった。他人のブログを読みながら、ハンバーガーとバナナに葡萄を食って腹ごしらえをし、それから風呂場に行った。母親が湯を沸かしておいてくれたので、シャワーで済まさずに浸かって、安楽を味わってから上がった。歯磨きやら着替えやらをしていると、もうすぐに出る時間である。ワイシャツにネクタイのみで上がって行くと、母親が、ベストを着ていけばと言うので、それに従って、今秋初めて黒のベストを身に着けた。そうして出発、自転車を駆って夜闇の降りた坂を上って行き、街道を過ぎて裏に入った。進む先から瞳に光を送りつけてくる街灯が、中心に丸く、球らしく輝きを溜めて、そこから四方八方に発され、伸びて行く先の尖った光線は針か棘のようで、全体がかすかに緑を含みながら金色に発光するウニのように見えるのだった。光線のあいだ、球の周囲には暈が生まれて、空中にざらざらとした紋様が描かれるのだが、その襞はこちらとの距離が変わるにつれて、空から見下ろした海原のようにも見え、また少し波打ちながら盛りあがる砂丘のようにも見えるのだった。職場に着くと、既に大方の人は丸く設けられた席に就いており、そろそろ始まろうとする頃合いだった。こちらも席に加わって、そうして七時四五分から会議が開始され、新制度導入についての説明がなされるのだが、ロールプレイングの合間などに、こちらが口火を切って質問をすると、その後もいくつか追随する者が出て、上司の想定したよりも時間が押すことになったようだった。この新しい上司の、教室運営方針発表は、元々二〇分で設定されていたのが一〇分ほどに縮まり、最後に隅でコンピューターを操作していたエリアマネージャーから一言あって、終いとなった。このあとは、新上司の歓迎会名目で飲み会という話である。参加は伝えてあったので室の隅で待ち、連れ立って職場を出て、近くの居酒屋に行った。当初の予定よりも人数が増えて、こちらは角に引っこんでテーブル上の狭いスペースを皆で協力してどうにか活用し、ものを食ったのだが、取り立てて印象に残った瞬間もなく、面倒なので会のことは詳しく記すまい。零時前に上司とその補佐格にあたるベテランの人が去り、零時半を機にこちらも帰宅を告げて、席を立った。職場に停めていた自転車まで戻り、夜道を駆けだしたのだが、裏通りに入って空を見上げると、曇っているようで黒々と濃密に闇がわだかまっている。虫の音が周囲からしきりに響き、静寂を揺らすなかを行くと、人のあいだに座って会話のざわめきに囲まれていたところから、一人の涼しい夜道に移ったので、心が非常に落ち着き、解放されたような感じがした。それでゆるゆる漕いで帰宅し、家中に入ると父親がソファにいるのに挨拶して、手を洗ってから下階に下りた。時刻は一時前だった。瞑想に対する勤勉さを取り戻して、服を着替えると枕の上に座り、瞑目と呼吸で九分を渡ると、風呂に行った。そうして室に帰ると、残り時間も少ない。出来る限り読書をしようと寝床に転がって、『失われた時を求めて』の七巻を読んだが、さすがに二時半前になると疲れに耐えかねて休むことにした。それでも瞑想はして、二時四〇分に消灯である。