2016/11/12, Sat.

 枕に頭を戻した時の視界の最奥、ベランダの向こうに立った隣家のさらにその先に、道沿いの林の木が陽射しを受けて艶めいているのが、目に入った。風をはらんで内側から膨らむように、葉が蠢くと、そのなかの到るところに散りばめられた白点が、クリスマスに向けて華やかに装った木の電飾のように、柔らかく明滅してみせる。空はまさしく液体的な、明るく澄んだ水鏡の池のような青さで、均等に塗り尽くされているのが、左を向けば窓外に掛かった朝顔の残骸の向こうに隠しようもない。そのネットの脇に蜘蛛がさらに網を加えたようで、勢いのある風に前後している。糸はよほど細くて純な青さを背景にしては溶けこんでしまうが、光を分け持った部分だけは欠片のように浮かび上がって、生き物とも思えず小さな一点と化した中央の主のもとから、縦に横に斜めにと白の破線が立ち現れてはその構成を移していくのだった。時刻は一一時を回ったところである。便所に行ってから瞑想を行い、じっと停めていた姿勢を解放してベッドの縁に腰掛けると、下を向いた視線が、銀色の椅子の台座を捉える。ずぼらなもので掃除も長くしていないので、塵埃が一面に付着して隙間もないのだが、窓から光が斜めに流れてひらいたその通り道だけ、粉めいた無数の汚れが明るく浮き彫りになって、まるで星屑を敷き詰められた宇宙の一角のようになっていた。

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 眼下の鍋のなかの沸き立つ表面には、諸所で泡の溜まりが生まれて膨らみ、瘤のようにして水面から僅かに持ち上がっている。大小の泡が瞬時に生まれては消えるのを繰り返しながら、複雑な起伏を片時も水面から失わせることなく保っているのだが、蛙の卵のようにも映るその泡の各々に視線を寄せてみると、指の腹よりも小さなそれらにも天井の蛍光灯が目一杯縮小されて忍びこんでいるのだろう、卵のなかの生命のような白い欠片が必ず見つかるのだった。