2016/11/19, Sat.

 空中を見やればかすかだが雨粒が漂っているので、黒傘を持った。道路の上には色とりどりの落ち葉が、両端は路面を隠すほどに敷かれて、道に並行して帯を二つ作り、こちらが足を進めるそのあいだにも避ける隙間のないくらいに散って、濡れて暗んだ赤や黄色を貼りつかせている。

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 立川で降りると、階段を上った。改札に向かうと、出ようとする群衆が厚くごった返しており、その厚みに少々、何か気持ち悪いものを見たような感じを覚えた。しかし自分もそのなかに混じって改札を抜ける。土曜日とあって街は盛況らしく、広大な通路を歩いていても、周囲は常に人に取り囲まれていて、近くの人との距離が乏しくて狭苦しい。

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 モノレール下の広場でイルミネーションがやっているからと、来た道とは反対側に折れて歩廊を行った。頂上に丸いハートを掲げながらも、青い電飾に覆われて、氷の大樹を思わせるような、最も巨大な一本が、高架歩廊のすぐ眼下に見える。その足もとでは、散りばめられた金色の光が統率の取れた明滅を繰り返して、穏やかな水流の様子を演出しており、流れて行った先で緑に埋め尽くされた植込みの縁から溢れ、側面を零れ落ちる動きまでもがご丁寧にも描写されているのを、昨年もまったく同じものを見て日記に書き付けたなと思いだし、あれから一年が経ったか、と思った。しみじみとした感慨のようなものなど、特段湧きもせず、一年の経過が乾いた散文的な事実として捉えられたのだが、しかしそれでもやはり、速いなと、その一語だけは滲む。広場の上空を長々と伸びて行くモノレールの線路に沿って、やはりくっきりとした青さで冷たく立つ樹氷めいた小型のツリーが、いくつも並んで、視界の果ての薄闇のなかへと続いていた。

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 到着して降りたホームには風が走っていたが、肌は寒さを覚えず、むしろ渇いた喉に水を流しこんだ時のような快さが触れる。まるで秋の晴れ日のようなとホームを進んだが、ところがある時点から、一歩を踏むごとに如実に空気が冷えて行き、数瞬で冬のそれに移り変わったので、驚かれた。とはいえ、マフラーを巻かずとも震えることもなく、気温はやはり高めのようである。階段通路を抜けてアスファルトを踏むと、あたりには一面、楓の葉が散らばっており、街灯の白々とした放射に乱された薄闇の底で、まだ落ちて間もないのだろう乾いたものはまるで浜辺に放りだされた貝殻のように、濡れて既に踏まれてもいるらしいものは地に染みこんで一体化するように、それぞれ浮かび沈んで赤や黄の色を織り重ねている。