2016/12/2, Fri.

 快晴の日で、ベランダのほうから射しこんだ陽が薄青いシーツに広がって、白んでいる。日なたの温もりが恋しがられて陽のなかに入ると、大層暖かい。足の裏を左右に合わせた上から両手で掴み、前に向けて身体を曲げ倒して、下半身をほぐしていると、目前に寄ったシーツの、明るく照らされて細かく柔らかな肌理が明視されるのが、なだらかな雪原のように映った。

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 畑に下って行く階段には、その脇に生えた梅のものだろう、葉がいっぱいに散って、水気を隅まで失って色をくすませていて、その上を踏んで段を下りると、一歩ごとにくしゃりくしゃりと音が立つ。

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 湯に浸かって浴槽の縁に首を預け、腕も湯から出して両側に載せる。もう暮れ時も近く、ガラスを透かして入る光は淡い。窓縁を越えてタイル張りの壁に差し掛かるとそれは、斜めに落ちて、空気と同化した平行四辺形が描かれかけるのだが、壁の半分ほどまで行ったところでその輪郭は拡散して、消え広がっている。浴室内で明るみを目にもたらすのはその一角のみで、矩形を除いた周りは薄影色に落ちこんで、角には特に、毛玉のように暗色が溜まっている。宙は湯気が占めており、天井の隅のほうを見やれば、途端に瞳が寝惚け眼と化したかのように、集まった蒸気に視線の先端が濁る。磨りガラスは、その湯気がそのまま固着したかのような風合いで、外の、もうよほど円熟した木々の緑や樺色が、混ざって細帯となって、窓の端で縦に一本、僅かに引かれている。じっと静止しながら目を閉じて、湯に安らいでいると、鳥の軽い地鳴きが立って、鳥の声というものを随分と久しぶりに聞いた気がした。入っているうちに夕刻が進んで、微光の矩形にも影が混ざって、紛れはじめる。

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 出る頃にはもう五時過ぎで、暮れ切った空気は冷たく青い。母親が散歩がてら途中までついてくるつもりのようで、玄関を出るこちらの後ろから続いた。振り仰げば林の傍に、星が一つ、灯っている。ちょっと行って背後の空が広がれば、三日月も姿を現して、それは和らいだ笑みの、女人の唇めいて細く湾曲している。