2016/12/5, Mon.

 外は薄雲が混ざって、空の青さがちょっと煙いようになっている。太陽はそれでも妨げられずに照っており、ちょうど二つの窓ガラスの、黒い枠の重なりでもって縦に切断されているが、その眩しさは瞳に悠々届く。左目に横から光の先端が掛かって、レンズの表面に薄膜を作るとともに、羽ばたく途中の翼のような軌跡を視界に引っ搔くのだが、右目を閉じてその軌跡に焦点を合わせてみると、緩く湾曲したそれぞれの筋に色が含まれて、乱れ気味の虹を構成しているのだった。

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 外に出ると、空はもはや僅かばかりの青味すら失って墨色に曇り、五時だというのに、黄昏も宵も越えて夜の気配である。ポストを覗くと、さまざまな葉書とともに、インターネットで注文した本が届いていた。黒い包みに収まっているのは、四冊頼んだうちで唯一未着だった、『フローベール全集』の九巻、書簡集の二番目である。それを玄関のなかの、腰掛けの上に放っておいてから出発した。母親は日が随分と短くなってあたりの暗いことに不安を洩らしながら、歩調を抑えたこちらの、横には出ずに後ろを、付かず離れずでついてくる。振り仰いだ空には、やや太くなった三日月が、雲に妨害されてぼやけつつも、かろうじて薄黄色の切れ目を作っている。道端に溜まった落葉の上を踏んで行くと、もう乾きを失っていて軽い音は立たず、しっとりとした感触を靴底に返した。坂に入ってすぐのところで母親はこちらに別れを告げて、帰って行った。林の合間の随分と暗い坂を行くと、宙に掛かった蜘蛛の巣ばかりが電灯の光に際立っている。マフラーできっちりと首もとを守っていたが、空気にさしたる冷たさはなく、襟巻がなくとも、凌ぐというほどのこともなく歩いて行けそうだった。行き交う車の目が皓々と輝く街道を越えて、裏道に入った。この日は下校する中高生の姿どころか、道に入って初めのうちは人影一つなく、左右の家々も押し静まって、街灯の光ばかりが均等な距離を置いて一直線上に膨らんでいるなかに、こちらの足音がかつかつ響く。進むうちにはすれ違う相手も現れたが、その顔は暗みに沈んでまったく見て取れない、冬至のいよいよ近い冬の夕刻である。