2016/12/8, Thu.

 そろそろ洗濯物を入れなくてはと上階に上がって、ガラス戸を開けると、ベランダは眩しい。先日のように一面埋めているわけでもないが、足もとの、室内との境の際に葉がいくつか溜まって、スリッパのなかにも入りこんで、軸が覗いている。

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 三時まで一五分あったので、その時間を掃き掃除に充てることにして、外に出た。もはや大した散りようではない。大方は赤味混じりの茶褐色が褪せたような枯れ色の落葉のなかに、凛々しく渋い紅を隅から隅まで乱れなく湛えた五弁の紅葉[もみじば]がいくつか転がって、際立っていた。

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 裸で立ち尽くしていると、一二月の風呂場の空気は、午後三時であってもただでさえ寒々しいが、シャワーのレバーをひねると、出てきたものが温まるまでのあいだに、足もとに落ちる水流をなるべく肌から遠ざけようとしても、冷気が寄ってきて、鳥肌がさらに加速して固くなるようである。

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 車の行き交う脇を歩いているうちに、ふと振り向くと、西空の山にもう接して太陽が膨張し、空の下端を朱の色に充満させている。正面に顔を戻すとしかし、もう低くて障害を越えて来るほどの角度もないのだろう、その断片はいまにも消えそうな弱さで、アスファルトの上はほとんど灰青色に染まっている。空はすっきりと晴れた青を下敷きにしながらも、鳥の羽のような、産毛めいた感触で縮れたものやら、激しい滝の水の塊を横に寝かせたようなものやら、コーヒーのなかに垂らしたミルクの膜めいたものやら、そこかしこに稀薄な雲が引かれて乱れている。裏通りに入れば、正面の空、そうした乱れのなかで一本、ひょろひょろと細長く、かすかに波打って滑稽なような軌跡を描いたものが、飛行機雲なのかどうか判別が付かない。

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 黙々と帰路を行って、街道の緩い坂を上って頂上に達したあたりで、木にやや遮られながらも、夜空に緑色の靄が浮かんでいるのが目に入った。あそこに月があるらしいと見ていると、ちょうど雲の裏から、繭を切り裂くようにして、下向きに弓を引いた弦月が、まさしく船のような具合でゆっくりと泳ぎ現れ、しかしまたすぐに黒い空間の裏に帰っていく。残った雲は緑の光を失って、先には繭と見えたが、曲線を描いて、むしろそのなかに棲む太った芋虫の、身を折ったような形である。