2016/12/10, Sat.

 西を向くと、父親の白い車の鼻面に、降った輝きが激しく反射して、視界がほとんど一面、純白に舐め尽くされるかのようである。砂利の上に落ちた葉を平らな敷地のほうへと弾くたびに、陽の掛かったところでは、小石の隙間から土煙が湯気のように立ち上がるのが露わに見えて、真っ黒なスーツがそれにまみれて汚れないように風向きを計算して箒を操った。

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 まだ時間も早く、路上に日なたの占める割合も大きく、明るい往路である。空はくっきりと晴れて青く、街道に出る前の、崖の下から聳えている巨木の、葉叢の隙間にも青さが散りばめられているのがよく見える。街道を渡り、裏通りに入って開放的な陽気のなかを歩いていると、昼下がりの静けさのなかに、耳慣れない鳥の声が立っているのに気付いた。弦を瞬間、短く擦ったような響きで、一聴虫の音にも似ているが、林の木々のてっぺんのほうから落ちてきて、空気に混じって流れて行くその残響の質が、虫のものではあり得ない。

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 職場を出ると道に銀杏の葉が、ばらばら落ちて横たわっており、昼間の暖かさの記憶が身に残っていたのだろう、空気は予想よりもきんと冴えて冷たい。それで裏通りに入ると、自販機に寄って、ココアの缶を買った。ジャケットの内に入れて押さえ、心臓の上あたりに当てながらちょっと歩いて、温もりが服に染み付いたあたりで取りだして、口を開けた。一口ずつ小さく飲むあいだに、歩いているから胃が勝手に揺れて、随分と熱い感触が腹に入って来たかと思うと熱をあたりに広げて、臓腑が炙られているかのような感覚が、快かった。月は高く、まだ孤は横向きで、真白い輝きを放っている。