2016/12/11, Sun.

 湯に浸かって首を浴槽にもたせかけ、視線を空中にぼんやりと浮遊させると、満たされた湯気のなかに電灯の、乳色めいて丸いような光が渡り膨らんで、室はクリームめいた柔らかさに浸っているのが視覚に捉えられる。その明かりのなかで、タイル張りの壁は余計に滑らかになり、浴槽に接した下端のほうでは、それぞれのタイルのあいだの小さな溝が、ほとんど視認できないほどに気体が溜まっている。鏡は曇りきって、何ら明瞭な像を映していない。時計も同じく、数字は消えかけて、二つの黒く太い針が、鼻の下に蓄えた髭のように左右に広がって八時二〇分を指しているなかで、青い秒針が薄れながらも刻々動くのが見える。電灯の白さは左右の壁にも反映して、手近に迫った右の壁の上では、随分と小さくかすんで映っているものの、周囲に複雑な水垢の跡を浮かばせていた。室内を見回して、シャンプーや洗剤のボトルやら、壁に掛かったブラシや体を擦る用のタオルやらに視線を留めると、そのそれぞれが密やかなようにただ静まっていて、ぐるりと回った視線が、浴槽の外に投げだして静止していた自分の手に到り着くと、先端に水滴を僅か垂らしているおのれの、色の温もった指までもが、いかにも物めいて、まるで動かず固い彫刻のように映った。仰向けになった胸のうちで心臓が鼓動を、血の巡りが良くなっていて結構な速さで打って、それが首のほうまで響いて、縁に置いた後頭部の、頭蓋骨の際を中心にして連動する一つ一つの刻みが、快いようでもある。