2016/10/23, Sun.

 気温は低めでソフトジャケットを羽織ったが、坂を上って街道を歩いているうちに、服の内の温もりが涼気に勝りはじめた。葉書をポストに投函してから裏に入り、ボールのように膨らんだ鞄を提げながら、進んで行く。前日も見た民家の塀の内の小さなサルスベリは、もう花が落ちているかと思いきや、まだかすかに残って筆先に絵具をつけたようになっていた。

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 駅員の待機する小屋の壁に背を預けて電車を待っていると、頭上では鳥たちが群れを成して、マンションの周囲をぐるぐると旋回しており、呆けたようになってそれをしばらく見つめた。平面的に白く濁った空を背景にした黒い隊列の構成員はそれぞれ、羽ばたきによってふるふると上下に震動しながら視界を滑り、ところによってカードや皿のように細く平たく変化する。鳥たちが古びた黄土めいた色のマンションの側壁の前を通る時だけ、壁に反射するのだろうか、翼が空気を搔き分ける音がこちらの耳にも届き、また、隊列は黒点の集合であることを一瞬やめて実体を取り戻し、その羽の裏の白さが垣間見えるのだった。あたりは静かで、地から立つ虫の音も響く。鳥たちは時折り気まぐれなように、それまでは左に折れていたところを右に軌道を変えて、円の位置を移しながらあたりの空を見回るかのようにうろついていたが、そのうちに遠くへ行ってしまい、電車もやって来た。

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 出ると五時過ぎ、空はビロードのようなふくよかな厚みの青さに満たされ、特に西の一角には何度も筆で塗りたくったように、濃紺に沈みこんだ雲が引かれ、駅舎の彼方は既に暗く、夜に入りこんだかのようだった。