2017/1/2, Mon.

 居間に立ち尽くしていると、南窓の外の、太陽の光が染み通った空気のなかを、極々小さな、粉のような虫が群れて飛び回っているのが視界に浮かぶ。何匹か入り乱れながら、柔らかい軌跡で緩く斜めに落ちて行くのが、淡雪の降るのを見ているようでもあるがこの雪は、窓枠の裏に隠れて見えなくなったと思うと、すぐにまた方向を変えて巻き戻って、宙にいつまでも漂っている。遠くでは、家屋根をいくつか越えた先に立つ木の、緑に浸されきった葉に光が灯って微風とともにゆらゆら揺れているのが、一面蝶が止まって翅を震わせているようにも映る。空には雲がいくらかあって、しばらく陽が陰るとそのざわめきもなくなってしまうのだが、そうすると今度は、青空の山際に嵌まっている雲だけに光の感覚が残って白さを純化しているのが、随分と明るく際立つのだった。陽がまた現れて大気が仄かに色づけば、ふたたび輝きによって象られた蝶々たちが騒ぎはじめる。

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 ぼんやりと視線を上げて林のほうを眺めた。竹の葉が薄緑を保っていくつも垂れ下がって背景を成しているその前に、完全に葉を失ったほかの木の冬に晒されて薄色に褪せた細枝の、縦横無尽に走って広がりながら手当たり次第に繋がりをつけているその網目状の無秩序が、地中の根をそのまま空中に持ってきたようでもあり、電磁波か何かの騒ぎの軌跡が宙に刻印されたかのようでもあって、これはなかなか凄いなとしばらく目を瞠った。

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 そのうちに三時が過ぎて、陽が落ちて行って外の空気の風合いが淡くなりはじめているのに、まだこの山がちな地域の景色を眺めていなかったのが惜しく思われて、席を立ってサンダル履きで玄関を出た。庭には、雑多な植物や植木の類がてんでに場を占めているが、祖母が世話をしきれないからこれでも減ったはずである。あいだの細道を通って敷地の端まで行き、あたりを一望した。すぐ足もとからは地面がかなり低く落ちこんでおり、怪我をしかねない高さである。眼前にはやや斜面になった広い畑地が、結構先で木立に奥行きを画されながら左右に伸びひらいており、もう冬で野菜の緑もほとんど見えず――キャベツらしい丸い塊が僅かに並んでいた――、あたりは大方枯れ草の淡くくすんだ芥子色に満たされたその上に去りかけの陽が残って明るみを帯びながらも、背後から伸びて蔭も差しこまれている。振り向けば、亡き祖父が随分と昔に己が手で建築した古木造りの二階建ての家屋の、側面から湧いて流れるその影である。右方には山並みが密度を弱めて稀薄化しながら果てまで織り成されており、左を向けばそちらはそちらでまた山丘が聳えているが、その足下に上の道の家々が並んで、斜面の縁でこちらの視界に晒された一軒の裏では、何かものを叩く大工仕事めいたことをしている人がいた。

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 時刻は六時頃だったはずである。墨汁色の空には大層細い三日月が切れ目を入れて、弓なりになったその両端の二点を結んで斜めに引いた線上のあたり、月のすぐ隣に、同じ金色の光を放って殊更明るい星が点じられていたのを、帰ったあとで金星だと知った。