2017/2/23, Thu.

 往路、コートを着ずにジャケットのみで出たが、問題のない陽気だった。坂を行くと林から、鼻に掛かったような音色で高低の二音を行き来し、嘲弄的な笑い声を思わせる鳥の鳴きが降ってくる――あるいは、ゴムを擦り合わせたような摩擦の感触も響きのなかに強いのだが、この声は近頃よく耳にするものの、何という鳥のものなのか一向に知れない。街道に出たところでいつものように西に首を向けると、山の稜線に触れるか触れないかで浮かぶ雲が、滑らかな断面を下から照らされて白橙に明るんで固化したようになっているのが、雪花石膏の具合だった。朝方に雨が降ったあと、日中は一時晴れ間も見えたようだが、今はまた雲がぐずぐずと、良く煮えた果肉のように形を崩しながら連なって青紫を帯び、下地の淡水色が露わになるのを妨害していた。気温が高めなためか鳥たちの活発な夕方で、駅の方まで来ると、周囲の家々の合間から声がしきりに立ち、一度などは、つがいだろうか目の前を二匹が連れ立って空を切り、アパートの窓先に掛かった柵のあたりに突っこんで行ったが、鳥の体が小さいことと、あたりが既に仄暗くなっていたこともあって、柵に溶けこんで行ったかのように、目を凝らしてもその姿が視認できなかった。同じ種のものが何匹か、丁字路の突き当たりの、塀に囲まれた庭に飛びこんで、玉を跳ね回すように鳴き声を弾かせ、空気をかき混ぜていた。角を曲がると、そのあとを追って、別の家の垣根に移り、軽く小さな鳴きではありながら、高速の連打を激しく聞かせていたが、その姿形を定かに見ることは叶わなかった。

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 帰路、行く手の西空は暗く、家屋根の輪郭線はそのなかにぼやけている。頭上から東に掛けては雲がなだらかに続いて一面を埋め、白く濁っているのが、仄かに明るいようでもある。見上げた視線を反転させて落とすと、通りの静寂が頭に染み入るようで、自分の靴底のゴムが収縮する摩擦音が耳に立った。右足を踏み出したあと左が追って前に出て、右が後ろに送られての再度の蹴り際に鳴るのだが、それを確認するようにして歩調を緩め、一歩一歩をゆっくりと踏みながら道を行っていると、頭では別のことを考えながら歩みが滞りなく続き、ちょっとした踏みの調整や方向転換も難なく済ませて、平衡を崩すこともなく鷹揚と動けているのが不思議なように思われた。寒さの和らいだ日なので、大層久しぶりにジンジャーエールのボトルを自販機で買い、右手に持って帰ったが、握ったその手指に冷たさというほどの感触は一点もなかった。