2017/3/6, Mon.

 往路、曇天。雨の気配がなくもないので、傘を持った。気温はそれほど低くはない――出る前に風呂に入ったためだろう、肌の温もりが服の内に籠もり留まって柔らかく、露出した顔や傘を持つ手に触れる冷気も表面を撫でるばかりで、芯には侵入してこない。空気が霞んでいる日で、街道の見える場所まで来ると、その向こうの、線路を挟んでさらに先の林を縁取る裸木の、突き立って重なる枝分かれのそれぞれが分明ならず、煙ったようになっていた。表に出て、東へと緩く下って伸びて行く道の先を見通しても、町並みに沿って左手から張り出した丘は袋に包まれたようで、同じく曇っている。空は真っ白でどこを見ても視線の手掛かりがなく、低みに向かうにつれて僅か暗く濁りはじめるのみで、色調の差もほとんど見受けられない。

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 帰路はさすがに空気の冴える晩である。西の途上には夜空から生えた指先のような月が掛かっており、雲はなくなったのか、見上げれば青味が渡って星もあった。しかし同時に、やはり空気が霞んでいるような感触もあり、行く手に点々と灯る街灯の幕もどこか水を含んだようで、それを抜けた果ての空間の様相がはっきりしない。