2017/3/9, Thu.

 往路。なかなかに冷たい空気の、この日も続いた夕刻である。街道前で道が表と裏に分かれる箇所の紅梅の木は、散りはじめているようで、一瞥して僅かではあるが、これまでよりも色が淡く、枝を囲む嵩が減っているのがわかった。昼には薄雲が湧いて窓の外の陽の色が薄らむ時間もあったが、いまはまたすっきりと晴れて、街道に出て緩く下った行く手を見通せば、清涼な青さが遮られず先までひらき渡って、果ての空と地の境では紫の色もひと刷毛被せられて仄めいている。裏通りを行くあいだにも、歩く先の家の高い壁面や窓ガラスに、落ち陽の色がほんのり映って、駅の方まで至っても空気に明るさが残り、すれ違う人の顔も見えぬ黄昏の遠くなった時節である。

               *

 労働のあいだから、原因は知れないが頭痛が始まっていて、風のやや強く吹き過ぎて顔に大層冷たい帰路では余計に重る。濃紺色の明らかな夜空で、まだ欠け気味の月も星も明るく映えていた。