2017/3/10, Fri.

 新聞の予報では一三度まで上がるとか言って、確かに室内にいても空気に多少のほぐれが触れられなくもないが、底にはまだ冬気の混ざって足先の冷える日である。夕刻五時の往路の大気も顔に少々固めだった。午前は綺麗に晴れたがその後雲が出て、いまも東の途上に広く浮かんで、南東の方まで及んだ端の、軟らかな切れ目が、落日の色を反映させて仄かだった。全体にも色が混ざって灰雲が中和されて濁りがちで、何とも言えない半端な風合いで道果ての丘の際を満たしている。それから逃れた箇所は澄んだ青が染み通って、なかに上りはじめた月の、もう満月にほとんど近づいて白々と丸いのが際立ってよく見えるのを、道を行くあいだも時折見上げた。五時半を回ると、雲に薔薇と紫陽花の薄色がそれぞれ通りはじめていた。

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 夜は一層冷えて、コートの内に寒さが通り、スラックスの膝周りにも冷たさが虫のように寄り集まって固まる感触がある。裏路地を行っているあいだに背後から車が来て投げかけられたライトが、道に沿って低く並べられた枯竹の柵にぶつかって、褪色した円筒の表面を青や紫の深く入り混じった光影が、水面線のように上下に緩く揺れて一抹、情趣だった。月は頭の、遥か直上のあたりに照って、群青に浸った夜空に星の、煌めきはそれほど強くないにしてもその震えが露わだった。