2017/3/18, Sat.

 往路、飲み会のための外出で、時刻は既に七時半、宵も満ちて行き交う車はヘッドライトを、上下に激しく、四角いように拡大して、その上からさらにこちらの瞳に線を伸ばしてくる。裏に入ると、ちょうど夕食に向かう頃合いで、外出先から帰って来る車といくつか遭遇して、後ろ向きにゆっくり車庫に入って行きながらその明かりが、建物の前に細く立った梅の白い花を、下から加えて白く照らしあげるのを見た。街灯は旺盛に膨らみ、八方に尖って空中をざらつかせている。辻に掛かるところでも、入ってきた車の照射が、宵闇を塗り替えて道の端から端までを青白く埋め尽くして、過ぎればあとには何も残らないその一瞬が尾を引いて、そんな風にただの光にはっとしたようになるのは、ロラゼパム錠を飲んだせいだろうかと思った――この精神安定薬を服用すると、感受性がいくらか敏感になるような気がするのだ。進んで、駅もだいぶ近づいて、道の出口にも至るあたりで、随分と静かな、と気付いた。表に車の通りのないではないが、間遠で、建物の並びを破るほどに重ならず、それまで耳に伝わらなかったようである。人通りも乏しく、その分気配がよく際立って、土曜の夜らしい落着いた時間だった。空は一見しては東の方など石灰の色が明らかなくすみ空のようだが、しかし南へ視線を振れば星が露わだった。

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 帰路、会をいち早く抜けて来たが、それでももはや日付の変わり目がだいぶ近い。大して話に加わりもせずに、したことと言ってジュースを飲み、飯を食っただけだが、それでも人中にあって多少は気が張られ、やはり疲れが出るようで、脚の重く下に引かれて――ロラゼパム錠のせいもいくらかはあろうが――気怠いような夜半前だった。歩いているうちにしかし、用事も済んでただ帰るだけのこの時間が、宙吊りになったようで、緩い一歩一歩を踏みながら何ものからも離れたようなひどく自由な気分になった。夜気は、前夜よりは冷たいが、肌に固いほどではない。墨を塗りこめたように鮮やかなアスファルトの上を、車明かりにはらまれた青やらの淡い色素が滲み、振り向けば視界の奥に細まって行く道の宙に、青緑に黄に白と丸い町の灯が群れなして、艶めく夜である。建物と建物のあいだにぽっかりと四角くひらいた、何もない空虚な土地が、両側で光を防がれて、隅に一台停まった車も巻きこんで全面蔭に覆われているその暗さに差し掛かって、横目で過ぎながら驚いたようになった。そこから目が空に上がって、群青色のなかに星は点っているが、月はないのかと見回しながら行ったが、見つからなかった。あれは何時頃だったのか、前の晩には自室のカーテンの隙間から、南空に色濃く掛かったものを見かけた時間があったはずである。もう見えない頃かと思いながら見つかったのは、街道から裏への分かれ目も目前のところで、あたりの家の遠のいて東南の空のひらいたなかに、随分と低くてそれまでは建造物に隠れていたらしいのが現れた瞬間、形のだいぶ歪んで赤くなっているのに、腐ったような、と浮かんで、地に落ちて崩れた果実を思った。