2017/3/20, Mon.

 往路、春分らしく、コートの必要ない暖かな夕べである。空気が動かなければ肌に触れているのもわからないほど馴染みの良い春気で、風が来ても快く涼しいばかりの軽さだった。空は雲が形なすのではなく液体のようにして全体に溶けて希薄に白いその裏に、水色も透ける。雪柳が、あるところでは明るい緑の葉の隅に一片の純白を灯しはじめ、あるところではもうよほど群れて長い連なりを作っていた。裏通りを行く途中に、道に沿って小高く盛り上がった土手の上に続く線路の踏切が鳴りだして、半音の差で衝突する赤いような和音を耳に吸っているうちに電車が通り、過ぎて音も消えたあとから風が流れて、近間の芒や薄緑の木々からさらさらと、淡い音が立って残るのが爽やかだった。雪柳のほかに、白木蓮の綻んでいるのも二箇所で見かけ、一つは庭の端に小さく立ったものだが、もう一本は二階屋を越えんばかりの高さで、燭台じみた枝分かれの先から口を閉じた貝を思わせる蕾の先を天に向かせていくつも灯しているなかに、もうひらいたものも見られて、満開も近い風情だった。