2017/3/22, Wed.

 往路、雨降りの一日を挟んでふたたび気温の上がったこの日も、コートを纏わずに出た。いかにも春めいた二日前ほどの暖かさではなく、風がよく吹いて木々を鳴らすなかを歩いて行くと、頬が少々冷えるようだったが、陽射しがそれを中和してくれた。太陽は高くなって、三時半過ぎの街道は隅から隅まで日なたに覆われ、南側の歩道の奥にも深く入りこんでいる。東へ向かって歩くと背後の、首元を包んだストールの上に温もりが乗り、そこから下へ、肩甲骨の真ん中から腰までも心地よさに照らされた。裏通りにおいても日なたが広く、同じ温もりが続いて、歩くことがそのまま日向ぼっこになる具合の快適な晴れ日である。空はくっきりと青く、そのなかに飛行機雲の軌跡の掠れたものか、ほとんど錯覚にも等しいような筋がいくつか横切って見え、南の方ではもっと明確な形を作った雲も湧いているが、家のあいだから覗くそれは妙に稀薄で、造型されたというよりは空中に描かれた具合で、青空に向かって押し潰され一平面に閉じこめられたようになっていた。二階屋を越える白木蓮が先日よりも花の締まりをいくらかほどいて太めの蠟燭を掲げたようで、いよいよ燭台じみているその真下の道端に、女性が腰掛けており、濡れているらしい髪の斜めに顔に掛かって表情を隠されながらスマートフォンを覗いているその前を通り過ぎた。