2017/3/28, Tue.

 往路、陽光の張られて屋根のいくつか白く塗られた午前一〇時だが、風がよく流れる大気の感触は冷たい。坂を行く途中に、木々の向こうから鶯の音が立って、伴った膨らみの感じからすると、川向こうから響きが渡って来ているのではないかと思われた。坂を抜け、鴉の声を耳にしたのに見上げると、風で葉を震わす木の頂上に、青空を後ろにして澄まし顔の一羽がいて、顔を動かした際に嘴が陽を受けて瞬間白銀色に変わったのを、その下を過ぎざまに見た。陽のなかにいれば結構温もって、裏通りを行っているうちに気付くと襟巻の裏で肌が汗ばんでいるような感じを帯びるくらいである――しかし、建物のあいだにあってもやはり風が吹いて、それもまた冷やされることになった。駅前で公衆便所に寄って出ると、近くの柵に鵯が止まっていて、ハンカチで手を拭きながら、鳴かないか、鳴かないかと眺めているあいだ、鳴きはしないが代わりに傍の柱のてっぺんへと飛びあがったその時の、離陸の加速から着地の減速までの軌跡が、実に滑らかで見事だった。

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 帰路、最寄り駅を降りるとホームから線路を渡った向こうに、枝を広げた桜木の、隅まで紅色の蕾を鮮やかに点じているのを見る。通路を抜けて低いところまで下りて来ている枝先に寄り、ちょっと眺めると、もう大方ひらく手前まで膨らんでおり、なかには白い花を洩らしているのもあった。坂を下り、椿の緋色のところどころに印された緑のなかに、鶯の音が降るのを聞く。昼下がりの空気はやはりいくらか寒々としており、午前とは違って陽の色も薄く、木の間に覗く彼方の山肌までの空気がやや濁って見えた。道を出たところにある小公園の桜の蕾は、品種の違いなのか段階の違いなのか、豆のような薄緑色である。