2017/3/30, Thu.

 往路、家を発って道路の上に立つと、道の隅から隅まで陽の隈なく敷かれて実に暖かい快晴で、同様に晴れた二日前よりもさらに朗らかなようで近所の屋根も艶めいている。坂を抜けて行くと、あたりから鶯の音がしきりに立って木の間に響く。風が吹けば涼しさが仄かに生じるが、空気も落着いていて、裏通りに入って曲がりながら温もりを身に受けて、眠くなるような暖かさだと思った。並ぶ民家のあいだを行っても鳥の声が多く、線路先の林から立つのでもなくてすぐ近くから降っていて、三連符で細い線を引き絞ったような声が上がるすぐあとに、同じ声調だがちょっと違った鳴き方のそれが別方向から湧くのに、鳴き交わしているな、と聞いた。高い白木蓮は東側を建物に接されて、まだ午前で太陽がそちらに寄っているから蔭のなかにあるのだが、それでかえって清潔な、黄みを帯びた滑らかな白さが際立つようで、一つ一つの花の塊が石鹸のようにも見えた。寺の付近まで来るとまた鳥が多くなって、林の方からひっきりなしに鳴きが響いて、足もとに視線を落として考え事をしていたところにそれに気付くと、その絶え間なさに、録音された音源が再生されているかのような錯覚を一瞬得た。

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 帰路、太陽は高くなり、気温もますます上がって、襟巻がいらないくらいの陽気のなかをゆっくりと歩いた。顔に温もりが付着して、身体が薄く汗ばんでくるほどである。鳥の声はあるが、朝よりもいくらか遠くから淡く漂ってくる趣で、昼下がりらしい静かな道だった。朝も見た白木蓮の下まで来ると、立ち止まってちょっと見上げた。先にはまだ花がすぼみ気味で丸みを帯びていたのが、正午も越えて屈託なく、陽光を吸いこむように天に向けてひらき、横を向いた花弁に目を寄せると、蠟で作られたようなその厚みが見て取れた。黄みもだいぶ濃く、匂うような色になって、かなり熟してきたのだろう、褐色の点が散った花びらもそこここに見られる。同じように花をいっぱいに開け広げている四手辛夷の横を通って先を行き、表に抜ける曲がり角まで来ると、右手の公営団地の方から吹奏の音が聞こえたのは、表ではちょうど車が途切れたところで、街道を挟んで反対側の裏にある中学校から渡ってきたのが反射したらしい。合奏ではなく、ウォーミングアップめいた長閑さで、 "Sing, Sing, Sing" のメロディと聞き取った。続きが聞きたくて表に出てからも聴覚を張って耳を澄ましたのだが、車の流れが止まず、風を切る走行音の厚いなかでは定かに聞き取られないうちに、中学校から遠ざかった。