2017/4/12, Wed.

 窓を開けて瞑想をする。外は光が満ちていて、穏和な陽気が漂って左肩のあたりに触れる。風はほとんどないようで、空気の柔らかさを乱す流れが室内に入ってくることもなく、下草が揺れる音もせず、時折猫が慎重に踏むような擦過音が聞こえるのみである。鳥たちが鳴き交わす一方、空間の奥には、前日の雨で増水しているのだろう、遠くから川の鳴りが立ち昇って敷かれており、そのなかに近間の沢の音もやはりいくらか勢いが良く、水の弾ける響きが混ざる。

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 午後五時の往路に出た頃には朝の爽やかな晴天はなくなって、雲の多い空となっていた。最高気温が一九度と新聞の予報で見たわりには、いくらか涼しさの勝る夕方だが、それでも日中、気温が結構あったらしいのは空中を飛び回る羽虫の姿が証している。街道沿いの小公園の桜木を近くまで来て目にすると、全体に紅が薄れて白さが強まり、まとまったように映って、ありがちな比喩ではあるがさながら雪を枝の上に積ませた風情だった。散る前の予兆だろうか――あとで目にした寺の枝垂れ桜も、色がより仄かに、滑らかなようになったと見えたが、散花に向かうものの一日毎に淡くなって白無垢に近づいて行くということが、あるのかもしれない。風が時折り正面から顔に当たって髪を額に擦らせるその頭上で、空は雲の畝を広範に拵えて、青と灰の混濁した乱れ具合で、裏通りを行くあいだそのなかの、この日は森の方ではなくて住宅の上を、鳶が一羽で旋回し続けるのに鳴くかと見上げていたが、結局声を落とすことはなかった。