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2017/4/14, Fri.

 例日通り五時に外出。坂の入り口から右にひらいた細道に立つ桜の小木は、花の嵩を減じており、既に陽も当たらない場所で澄んだ空を背景に、水で塗られたごとく白さの上から薄青い蔭に染まっている。街道に出ると、車道の左右に伸びる電線のあいだを、燕だろうか鳥がしきりに渡っているのが、通る車の上に見える。空は一面の青さで、遮られるものなく陽がよく通って、小公園の桜の花が、雪白のなかに茜色を混ぜこまれていた。枝先の方では散って萼の鈍い紅の覗いた箇所も見え、崩れが始まっている。摩擦のまったくなく、肌に触れる感触の稀薄な空気に含まれた幾許かの温さに、匂うような、と思った。裏通りに入ると前方を帰る女子高生の、スカートから出た脚の色が、西陽の照射を受けてこれも濃い橙色に色づいている。春の気に誘われたのか、裏道は普段よりも人が多い。祖母らしい婦人に連れられた幼子が道の向かいからてくてく走ってきて、こちらが行く手にいるのも見えず目前に来てからいとけなく立ち止まるのに、笑みを返してやった。駅が近くなってマンションが見えると、最上階を彩る陽の具合が先日と違って、端の方の窓に僅かに映るのみであるこれも、日の伸びを表すものらしい。建物の全景が露わになる駅前ロータリーに来ると、三、四階あたりの一つのガラスに太陽が入りこんで濃縮され、内から破裂させんばかりにいっぱいにオレンジ色を輝かせた。

               *

 帰路の空気は快い涼しさに収まって、肌寒さに脚が知らず速まった時節も遠く、歩調が自ずと緩む。昨晩の満月にこの日も東に月を探して、振り向き歩いたが、なかなか見えず、空の青さも昨日よりもだいぶ暗んでいた。低みで家々に隠れていた月は、広めの空き地に差し掛かってようやく現れ、夕刻に見た西陽の色を注入されたかのように赤らんでいる。街道に出て対岸から見る小公園の桜は花明かりして、暗中に仄めき浮かんでおり、枝の一番先を僅かに揺らすこともなく、白く凍りついたように静止していた。足もとには枝から落ちて渡ってきた花が散らばっており、歩を進めて結構離れるまでかすかに残って点じられていた。

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