2017/6/6, Tue.

 窓から流れこんでくる涼気が、起き抜けの肌にやや寒い曇天だったが、日中には、アイロンを手に持ちながら上半身を晒した格好になっていた。三時半を迎えて出た道は、さほど蒸すでもなく、ベスト姿の身体に馴染みの良い大気の質感である。雲は場所によって青さを透かしながら薄く一枚敷かれた程度で、太陽は西の、まだだいぶの高さに、雲よりも白く刻印された姿があった。その温もりがやはり触れてくるようだが、折りに風があって、耳を包むくらいには速くなる。
 夜は南の空に、真月に近づきつつある月が、赤く籠った光暈を纏って浮かんでいた。道を行く途中、ふと、午後一〇時の涼しい夜気のなかにいる自分に気づく瞬間があり、この日は普段よりもいくらか長い勤務だったのだが、そのわりにいつの間にかのように、事もなく過ぎたなと、後ろに去って行った時間へと視線を振り返すようにすると、始まりの夕刻がもうずっと遠くに、見えないくらいに思われて、忘れてしまうようだった。しかし事もなく、とそう思うなかに、時の過ぎざまに触れられた時の、やるせない空疎さのようなものもない。煩わしい労働の時間だったから、気づかぬうちのように過ぎてくれて良かったと、そういう話でもない。消えてしまうものは消えながら、至ったこのいまの夜道に、自足らしきものがあった。
 左に月を見上げると、欠伸が出た。隠れがちの月白だが明るくて、雲のうねりに煙いような空の、それでも四方に浸潤しているのが確かに見て取れる青みを露わに映し出す。月が沈めば雲の姿形も紛れて、青さの深まりが水底めく。最後の坂に入るところで、正面に高く、ふたたび掛かったのは、南中を少し越えたほどらしかった。