2017/6/7, Wed.

 起きた窓の外に風が多く、川の響きに混じって遠くから近くからさやぎが立ち、カーテンが円みを描く。梅雨入りと言う。出かける頃になっても風は続いており、坂の入り口に掛かると林が厚い響きを籠らせてよく騒ぐ。出口近くに立った木も、風にやられて葉を振り乱し、遠く市街の上にひらいた曇天を背景に黒緑の影が入り混じって形を変容させるそのざわめきに、目を惹かれて少々眺めた。街道に出て振り仰いでも、太陽の姿はない。
 風はしきりに走って道のあちらこちらで木立がよく音を立て、丘の樹々が枝葉をうねらせて流動化するが、肌寒さはなかった。白木蓮の大振りな葉を見ていると、その色濃い緑の前を流れて一粒、落ちるものがあった。雨の予報は聞いていたが、道行きのあいだ、降ることはなかった。下校する高校生らに抜かされながらとろとろと歩いているうちに、身体がほぐれてきたようで、恍惚でもないがいくらか心地が良いようになり、緩慢に駅に入ると、ホームに立って風を受けた。右から頬に当たってくるかと思えば、もう左に変わっている。帽子のつばを持ち上げては下げ、胸にも凭れかかってきて、ちょっと後ろに押されるくらいの強さがあったが、しかし、湿り気が弱いのだろうか、雨が降るようには思えなかった。
 図書館で窓際の席に就いているあいだに風はさらに強まり、厚いガラスの向こうから唸りが頻繁に鳴って、眼下では街路樹が頭をばさばさと回して狂っているのが見られた。六時に到り、腹にものを入れるとともに空気の質感を肌に確認しておくかと、外に向かうと、自動扉の境に掛かった途端に、円く突き出したような形の風が立ち向かってきて身を浸し、目を細めさせる。コンビニでおにぎりを買って、ベンチに座って食うあいだ、腹の軽さに加えて確かに気温も下がったようで、肌着にシャツ一枚の身体が震え、温かい飲み物が欲しくなるくらいだった。しかし、ともすれば強い吹き降りになりそうな風の募りではあっても、肌触りが軽いのだろうか、やはり雨の気のようなものが感じられず、降ってもさほど強くはなるまいと見えた。
 実際、降り出すには夜になるまで掛かって、館を出た頃にようやくいくらか散るものがある。最寄り駅に着くとそれでも強まっていて、短く繋がって枝分かれする雨の線が電灯に白く照らされるが、尋常の降りではあった。傘は持っていないが急ぐほどでもないと、シャツを湿っぽく濡らされながら帰った。

広告を非表示にする