2017/6/14, Wed.

 午前には窓の外に陽の色も見え、空気に爽やぎが込められてもいたが、正午を越えて昼が下りはじめたあたりから曇りだし、外出の頃には窓が褪せていた。坂を抜けると暖気が雲を通ってくるようで、天を閉ざされた大気が温むなかに、それでも時折り風が走って軽やかに滑る。あまり周りを見ずに、ものをいくらか思いつつ路地を行くうちに、気づくと雲はさらに増えたようで、空の地の青さはほとんど覗かず、厚く詰まったものではなさそうだが青灰色に濃く沈んだ箇所も散見された。それでも雨はないと読んでいると、道の終盤に掛かって風が多くなったなかに、涼気が募って雨の気配が一滴点らないでもなかったが、大方降りはするまいとやはり払った。
 宵に到っても実際降るものはなく、むしろ空は、雲がいくらか減じて星が合間に覗いていた。何の虫なのか知れないがこの時期そこらで声を立てているのが林から鳴くのを聞くと、独り時季を外れた気早な蟬のようでもある。前日にもそれを聞いた空き地まで行くと今度はすぐ傍からじりじり発されていて、おそらく敷地の端の電柱からかと思われたが、至近に受けるといかにも押し付けがましいような声だった。家が近くなって入った下り坂で背後に突然、鳥の声が立ち、ちょっと蠢いて消えた。暗くなってから聞くのは珍しいが、画眉鳥のものかと思う。と言うより、あれほど闊達に滑らかにうねる声の持ち主をほかに知らないのだが、鳥の鳴き声というものにもある程度、本線のようなものがあるとするならば、それを敢えて回避し外れた道を行くその開拓精神の、フリージャズのサックス奏者の即興演奏を思わせもして、この時も、一瞬ではあったが、くねる煙の軌跡めいて流動し細く立ち昇って途切れた声の、木の間の静けさのなかに膨らむ無定形が眼裏に映って、一種、美しいようでもあった。