2017/6/18, Sun.

 玄関を出ると、夕刻に、雨がぱらぱらと落ちはじめていた。身一つならば気に掛けるものでないが、紙袋に詰めた本を見れば、繁くなった場合にそれらを守る術がないのは難儀で、傘を持つか少々迷ったが、持てば持ったで荷の多さが煩わしく、募るまいと根拠なく振り払って踏み出した。最寄りの駅までは降り増さず、蒸した電車に乗って乗り換えで席に就くと、西行の歌を読みながら移動を待った。『山家集』の春歌に触れる折々に窓の外を見やると、空気は仄暗いものの傘を差している姿も見えず、停まった際に線路を確認してもさして濡れたさまでなく、粒も目に映らない。これなら、と思っていたところが裏切られ、三鷹は雨、ホームのあいだの宙に白糸が間断なく垂れていた。
 駅舎内の商店でちゃちなビニール傘を買い、袋を身に引き寄せながら、小さなそれで何とか雨を防いで歩き、古書店に到った。覚えず長居となって迎えた九時にも降りは続いており、二つに増えた袋をまた身に寄せて駅に戻ると、電車はやはり蒸していた。帽子の縁に触れられて頭の周りが一周、湿る。
 最寄りに降りると、止んでいたのがちょうどいましがた、また降り出したところらしく、足もとに黒い点模様が次々と付されていく。帰って食事と風呂を済ませると涼みに出た玄関先、続くのはしとしとと、盛らぬ雨で、風も呼ばず葉鳴りも生まず、断片的な、揉むような音だけが林から立つ夜半前、薄布をふわりと広げたように涼気が漂い掛かってくるのを、風呂上がりの温んだ肌に受けていた。