2017/6/19, Mon.

 覚めた窓は白く満たされていたが、じきに晴れに移行し、久しぶりに気温も高くなった日で、温めた豆腐を食えば肌着の下の肩が熱を溜める。それなのでシャツを脱いでアイロンを扱ったあと、仕事着になって出た夕刻、木蔭の坂を行くあいだは空気の軽さ柔らかさに仄かな恍惚が滲むようでもあり、梢も鳴って横枝が煽られ涼しいが、街道まで来ると西陽の照射が強い。通りを渡って逃れた先の家蔭は広く、向かいまで掛かって輪郭はしっかりしているが、まだなかに青さは見えず、かと言って黒と言うべき強さもない、乾いた夕影の色である。脚の下端まで背後を照らされて路地を行くあいだ、前方を帰る高校生らの背負ったリュックサックが揺れる拍子に、金具が光を跳ね返して、あるものはシャッターを切るように間を置いて、またあるものは道の果てから信号灯を送るように素早く明滅するのだった。
 帰路も夜気に温みが残って、肌に水気が浮かんで袖を捲らせる。月は下弦も過ぎて出はよほど遅く、夜半過ぎらしく、空は暗みながら澄んで、星の灯しが太い。勤務後の渇きに誘われて久しぶりにと自販機で缶を買い、右手に持つと掴んだ指から冷たさが伝わって、身体の方まで涼しくなるようだった。下り坂を行くうちに何か聞こえてきたのは、鳥の声かと思っていれば木の間の先、下の道の家から叫ばれる女性の声で、言葉は定かに聞き取れないが、よほど耐えかねることがあったのか、近所に憚りもなく、まさしくヒステリックなと形容するべき激しさで喚き散らしているのを、どこも大変だなと静けさのなかに聞いて過ぎた。
 風呂のあとにまた涼みに出ると、先ほどは晴れていたはずの夜空がもう曇ったようで星が一つもなくなっていた。葉擦れもなく、細かな気配が点々と立つのみの林を抜けて、電車や車の音が伝わって来るのを耳に受けながら、肌を冷ました。