2017/6/24, Sat.

 窓から覗く空気の日影に色付いて、部屋内にも暑気が入ってわだかまる夏の風情に、この陽のなかを歩いて行くのはと怯んでいたところが、昼が下るといくらか雲が掛かって和らいだ。三時過ぎの坂には大きな葉鳴りが渡り、吹く風は厚いが重みはない。しかし途切れれば、熱の籠った空気そのものが粘って嵩張る。坂を抜けると一軒の屋上に、風に上下に煽られる蜘蛛の巣とともに鵯が一羽、白さに巻かれた太陽を逆光に、立っても飛ばずにその場で低く跳躍を繰り返してから、やがて移った樹の緑葉の、弱く艶めいていた。この日も身体が固くて歩みは鈍く、矍鑠と歩く老婦人にも抜かされながらのろのろ行くあいだ、背は濡れるが、風がよくあって不快ではなく、蒸し暑さで言えば昨日の方が強かったようだ。
 図書館の席が空いていなかったので、コンビニ前のベンチでおにぎりを食ってから喫茶店に入り、文字を打ち続けて数時間、そうして涼しくなった家路を辿って、扉をくぐる前に蛍は今日もいるかと林に寄れば、初めは暗闇だけだったが気配を殺すように待つうちに灯りはじめた。目に街灯が掛かってくるのが邪魔臭くて、暗がりに数歩踏み入って眺めると、木の間を虚ろに浮遊しながら小さく明かる光の、ありがちな形象ではあるが、花のゆったりと闇にひらいては閉じるがごときさまである。しばらく見てから離れて、時計を確認すると九時を示しているのに、もっと夜の浅いつもりでいたと困惑が差し挟まったのは蛍につられたか、涼しいような温いような夏の宵の口を思っていたらしい。