2017/7/6, Thu.

 午後三時を過ぎた頃、窓の外に葉を打つ音が散らばりはじめて、詰まった響きの雨が始まった。しかし同時に、白い家壁に重なる陽の明るさも垣間見える。前日は持っても使わなかった傘を今度はひらいて家を発つと、坂の上から風が、大きく涼しく走って来たが、表に出る頃にはぱったりと空気の動きが止まっていた。頭上は青く暗んでいるものの、降るものは弱く、西空が薄くなってもきている。路地に入ると背後から暖気の気配が寄ってきて、蒸し暑さが裏に籠るので傘を閉じ、ぽつぽつと落ちるものを構わず受けて歩いて行った。
 勤務が長い方の日ではあったが、世の尋常に比べればよほど短いところを、人のあいだにあって寄せる外圧にいつまでも強くならない身体らしく、勤めを終えると頭痛が始まっていた。今週の労働はこれで仕舞い、しばしの解放が訪れたはずが、前夜の道で覚えたほどの自由も感じない。雲の多い空に月は生え初めた芽のようで、それでも光は白く明るくて、雲の脈が分かれて作る複雑な模様を顕に照らし出す。傘を杖のようにこつこついわせながら行く脚の、頭痛と繋がってもいるのか大層疲労し鈍くこごって、ゆったりと歩く間に、月はだんだんと雲のなかを抜け出して、街道を渡って路地に入る頃には、もうかなり円くなった姿を晒していた。それを見上げているところに背後から車が来たので、脇に避けて目を落とした先、ヘッドライトを投げかけられた紫陽花の、瞬間浮かんだ赤紫が鮮やかだった。