2017/7/8, Sat.

 正午前の炎天下、不要な木材を鋸で切り分け汗だくになって以降、肌のべたつきが取れなくなって、夕刻、職場に出る前に湯を浴びることになった。浸かっていると、外から虫の音が入って来て、随分と蜩に似た声だなどと思っていたところが、支度を整えて居間のソファに座っていると薄明のうちにまた立ち昇った声が、蜩以外の何ものでもない。今夏、初めて耳にする。錯誤が挟まったのは、どういうわけかまだ時期ではないと勝手に思いこんでいたらしいが、過去には夏至を過ぎて間もない頃に聞いた覚えもあるのだから、むしろ遅い方なのかもしれない。家を出て坂に入り、まだ隙間を広く鳴いているのを聞いてもしかし、夏の到来をしみじみと感じ入るでもなかった。いつの間にやら七月に入って気温も高止まりし、朝ごとに汗に濡れながら起きて日中も絶えず肌を粘らせていても、季節に対する感慨をあまり強く覚えないようなのは、過去の日記に書いた言葉を使えば、歳月とともに時間というものも形骸化していくと、そういうことだろうか。一匹、鳴きはじめたと思った途端に声が途切れたものがあって、見ればそちらから鳥が立ったのに、まさか食ったのだろうかと、何故だか信じられないような気持ちでいると、頭上に移った鳥の方からぎぎ、と軋むような声が落ちたので、やはり食ったのだなと樹々を渡る影を見上げた。
 空は黄昏の青さに入る直前で、雲が含まれているとも見えないが淡白に褪せて、なかに赤く、桃色めいても見えるような満月が低く掛かっていた。風呂の直後から肌は湿り続けており、汗の玉が背に流れるのが感じられる。裏路地に添った森からは蜩は立たず、静けさのなかに夕餉の匂いを嗅いだり、食器の触れ合う音を聞いたりしながら歩いた。頭痛の芽生えがあって既に疲れたような、気怠い道だった。
 職場で会議を済ませた帰路は空虚な気分になって、どこにも所属したくないと例の倦怠を繰り返す。鼻水が少々湧き、くしゃみも出るのに風邪を思ったが、じきに温まった身体が落着いて、頭痛も芽のままに留まっていた。夜になって空に雲が混ざったらしく、南の正面に近くなった月はいくらか靄って、橙色の光をぼんやりと広げていた。