2017/7/10, Mon.

 大きな風が吹き、草葉の擦れる音がたびたび広がって響く昼間だったが、ベッドに横たわっていると背に熱が籠って、枕の端に載せたうなじが湿るのも煩わしかった。身体を拭いてから出かけた夕刻、風は残っており、坂ではニイニイゼミの声が薄く立ち上がる。丘とのあいだにまだ空を残した太陽が、背から尻から膝の裏まで照らすのに包まれて緩慢に行っていると、紅色の百日紅が咲きはじめているのを一軒の塀に見留めた。腹を白く晒して飛び立った鳥の頭上を渡るさまが、水のなかを泳ぐ魚のように映った青空である。街道にいるあいだ、視界の上端に空が入って釣られて仰いだ青の淡さに、陽が昇りはじめた朝の道を歩いているような錯覚が挟まる瞬間があった。
 前日がちょうど望の日だったらしい。帰路、星の散らばって澄んだ空を東に振り仰げばこの日も円い十六夜の月が浮かび、まさしくそこだけ刳り貫いて夜の裏を覗かせたかのように白々と、清く照っている。暖気の漂って残り、温い道だった。肌を濡らしながら街道まで行くと、夜でも公園の灯りに誘われたようで、桜の木からか柳のほうか、浮かぶ緑のなかからニイニイゼミの声が響いていた。道端の紫陽花が腐りはじめているのが、暗がりにあっても目にわかる。下り坂に入ると僅かずつ異なった虫の音が、遠く近くから次々と、替わるようにして立って重なるそのなかを抜けて、家の間近でもう一度月を眺めると、明るい空を下から浸潤している山影が、墨で描かれたように柔らかく映った。

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