2017/7/11, Tue.

 風の厚く吹き流れて葉擦れの賑やかに膨らむ日中、走るものに拍車が掛かって、甲高く細い唸りの鳴り出す時間があった。四時前ではまだ陽も盛って侵すように肌に沁み入るそのなかを、近間の最寄駅へと向かって行く。坂に入ると正面の樹々が木洩れ陽と緩い風を受けて、天然の電飾さながら、ゆったりと明滅する光をあちらこちらに湛えて緩慢に騒いでいる。駅に着くまでのあいだに既に汗にまみれ、やっと入った屋根の下にも北から明るい陽射しが寄せており、ベンチに座っても脚から腰まで分厚い熱に浸される有様、堪らず立って、ホームの端に僅か残った日蔭のなかに避難した。外では草が緑のなかに、磨きすぎたあまりに削れてしまったような純白を宿して、鷹揚に揺らぎながらもしかし同時に、硬化して金属に変じたかのごとき感触を表面に貼り付けていた。屋根に遮られて小さくなった空の隅、溜まった雲の、光に貫かれて浮き彫りとなっているのが蔭のなかから眺めていても大層眩しく、そこばかりを見つめているとその輝きに中てられたのか、見慣れた平生の居場所を離れて、旅の途上で初めて見る空の下にいるような、そんな錯覚が兆しかねない瞬間もあったようだ。
 月は出が遅れて低く、昨夜は真白く照り映えていたのがこの晩は黄味を強めながら右肩を隠しはじめていた。暑い夜道に、髪の内に湧く汗がくすぐったい。下り坂に入るとこの日も、風に触れられて回転しているかのような虫の音が周囲に立ち、それはあるいは、ぜんまい仕掛けの玩具が木立の奥で駆動しているかのようでもある。そのなかを通って、木の伐採されてひらいた斜面の脇に掛かると、寝かされた丸太の放つ香りか、熟したような甘さが立ち昇って鼻を刺激した。