2017/7/13, Thu.

 正午過ぎ、食器を空にしたまま卓に留まっていると、突然の雨が落ちはじめた。曇ってきたなとはぼんやり見ていたものの、風もなく、予兆らしいものも感じ取れず、降りはじめから間を置かず一挙に速度を上げる雨に、急いで立って洗濯物を取りこんだ。雨は短い一過性のもので、それから三時間ほど経って出かける頃にはふたたび陽射しが戻っており、脇から突き出した山百合が大口ひらいて斑点を晒している坂を上って行くと、駅の階段は光と熱の回廊と化していて、入れば液体じみた陽光に濡れそぼって激しく漬け込まれる有様、屋根の下でシャツの背をばたばたやりながら電車を待った。
 東京ではこの日が盆の入り、暮れには仕事で暇がなかったのだろう、夜道、料理屋の戸口で老夫婦が迎え火を焚いていた。斑状に掛かった雲の隙間に青が深く溜まって、なかに星が瞭然と灯ったその下、地上は気温が比較的低いようで、肌を撫でる微風のなかに涼しさの感覚が小さく含まれていた。月はそろそろ会えない頃かと見廻しながら、家の近間の坂の上まで来ると、出たばかりらしく赤みがかって低い姿が市街の空に見られて、揺らぐ水面[みなも]に映った鏡像さながら、細い雲を差し込まれて折り目を付けられたように乱れていた。