2017/8/21, Mon.

 夜半頃から降り出した雨の名残があって、路面は湿り、やや霧っぽい朝の道だった。街道から見通した先の丘も姿を薄めて、空は鈍く濁った灰青に静まっている。裏路地に入ると、網状の蓋を四角く嵌められて排水口から、増水した流れの響きが吐き出されていた。僅かに暖気は浮いていたようだが汗をかくほどでなく、欠伸を度々漏らしながら行っていると、百日紅の固そうに丸まった蕾に露が残っていた。
 昼がいくらか下って仕事を引けたあとはコンビニに寄り、諸々詰めたビニール袋を片手に、空腹でのろい歩みを進める。稀薄な光が出てきており、陽の下を歩くのも久しぶりと思ったが、すっきりと晴れるわけでなく、まだ大方雲に占められている。とは言え場面によっては、車の縁を白く艶めく球が滑るほどの光量もあった。うつむきながら歩く視界に入ってきたものにはっと見上げると、蝶である。柔らかく宙に切りこむように、体を動かさずにすっと流れて一軒の戸口に降り、静止してからゆっくりと開閉されるその翅の、橙色のグラデーションに斑点が付された模様にしばらく目を寄せてから離れると、表に出たところでふたたび同じ種の一匹が前を飛んだ。坂まで来ると、周囲の樹々の緑や幹の輪郭がくっきりと立って映るような感じがあり、木の間に遠く覗く川の、岸を埋めて蔓延ったその夏緑にまで目が届く。
 帰ってしばらくしてからアイロン掛けをする頃にはもう陽がなくなって、居間の南窓に見えるのは、襞もなく薄膜そのものと化して空にぴたりと溶けこんだ雲の広がりである。怠け心が出てインターネットに長く耽ったために、夜には目の霞みと頭痛にやられて、書き物に十分励むことのできない不甲斐ない半日だった。