2017/9/19, Tue.

 室内に暑気の漂う晴天が続き、この日も三〇度まで上がると聞く。モニターに向かい合って日記のためにメモを取っていると、背後の窓の先から、ツクツクホウシか、ちりちりと低く燻る蟬の声が立って、もうそんな力もないものか、高まらず鳴きに繋がらないままに終わった。洗濯物を取りこみにベランダに出ると柔らかな風が肌をくすぐり、玄関を抜けた三時半にも、林に空気が通って葉叢がさざめいている。伐採はもう終わったようで作業員はおらず、道の脇の林の縁が、石壁の上に土の側面を露出させていた。川の流れは岸の樹をそのまま溶かしこんだような深緑に戻って、ところどころに白波を差しこんでいる。
 雲は前日のように大きく塊を成すのでなくて、薄く引き伸ばされて全体に掛かり、しかし淡いので陽は支障なく貫いて、街道には日蔭のひとひらも生まれず道端から突き出す影もなく、全面に陽を敷かれながら道路が果てまで伸びている。最高気温は下がったはずだが、湿気があるのか前日よりも汗の感覚が強かった。百日紅はそろそろ終わりが近いようで、道中見るものはどれも花が萎んで、老い衰えた姿になっている。尻から下を熱に包まれながら裏路地を行くと、束の間のものだろうが、森に蟬の鳴き声が復活していた。
 疲労感に欠伸の繰り返し湧いて出る夜道、空気はゆるゆると動き回って涼しく、雲は変わらず広がっていて、月も遠い時期で通りが暗い。あたりを満たす虫の音に耳を寄せつつ俯きがちに行っていると、気づかず、白線の上を辿ってまっすぐ歩いており、そうしながらあれはアオマツムシ、あれはエンマコオロギ、ツヅレサセコオロギと、かわるがわるに消えては生じて次々と耳に触れてくる声をいちいち名指して追っているうちに、心が深く静まって、いつの間にか欠伸も消えていた。表道へ折れて左右のひらいたところでもう一度、ちょっと見上げた夜空の、くすんだ雲を掛けられて籠っているのに煙色、と語を当てて、車の途切れた通りを渡り、静かな歩みを続けて行った。

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 空き地、繁った草むらの合間に少年。自転車に乗り、猫背になって身体を曲げながらゲーム機を覗きこんでいる。その姿に目を向けながら進むと、視界に西陽が入ってきて、ススキの穂が光に透けて飴色じみた色合いに染まる。