2017/10/3, Tue.

 室内にいるあいだから肌に汗の浮かぶ陽気で、家を発った三時半にも露わな陽射しが背を温めた。空には爽やかなような青さも覗くが、街道で見上げた雲は乾いておらず、輪郭も固まらずに灰色混じりで水っぽく、積もってしばらく通行人に踏み崩されて、土を含みつつ溶かされた雪の質感だった。続々と走り去って行く車の背面には、車体の角度や段のつき方に応じて位置は微妙に異なりながらも、小さく圧縮された太陽の分身がみな一様に宿されている。
 久しぶりに脚の方まで浸けられるような暖気に、背に汗の少々転がったようで、酷暑に貫かれながら歩いた気怠い道行きの、夏の幻影が戻ってくるような感がした。しかし勿論、森に蟬の声はもうなくて、替わりに響くのはアオマツムシのそれである。太陽は折に隠されて、路面に日なたのひらいては閉じるそのなかを行くと、空き地の縁に生えたススキの、鈍く赤みがかって毛のない穂をざんばらに広げたものが、雲を逃れた陽射しを掛けられ透けるかのようになっていた。さらに進んで駅前に入ったところで、正面に建ったマンションの、上から下まで光を纏って穏やかな黄茶に明るんだなか、いくつかのベランダに吊るされた洗濯物の原色が、統一を乱す闖入物として差しこまれているその強さを、しかし不興に思わず面白く眺めていると、鳥除けのCDが揺れたのだろう、翻る瞬間に光を弾き、緑の混ざったような眩しい閃光が目を射った。