2017/10/5, Thu.

 昼時、ベランダに続く窓がひらかれると、外から光の差し入って床に細長い矩形が見られ、四時過ぎになっても明るさは続き、淡い黄金色の光が窓外の緑に重ねられていた。前日の反復じみた風景だが、この日は空はそうは曇らず、覗いた水色の穏やかに、薄明るんだ地上と調和している。即席の味噌汁を入れた椀を両手で包みつつ、その様子をじっと動かず見つめていると、風はないようで微動だに見えない彼方の樹々の、窓とそのまま同化したかのような、ガラスに直接描かれたかのような遠近の錯誤をもたらすものだ。紅葉はまだ兆しすら見えず、色の鈍くはなっていようが緑に揃ったそのなかに、しかし一本のみ、あれは何の樹なのか赤茶色に染まったものの混ざっていて、ちょうどそのあたりに鳥が現れて短く翻ってはまた消えたのが、静かに停まった空間のなかに唯一生じた運動として、束の間風景の固化を解く。鳥と言っても形など見えず、紙吹雪の一枚か、雪のひとひらのように微かな姿だった。
 それからちょっと経って四時半に至ると、下から這い登る蔭に追われて黄金色はもう山の頂上近くまで退き、出発した五時には冷たい空気に色はない。坂を抜けたところで見上げた鱗雲は白くて粉っぽかったが、街道に来ると西空に散った雲の一団の、温和なオレンジ色を注入されていた。裏道に入る間際の百日紅に久しぶりに目をやれば、花は樹冠の方に疎らに残っているのみで、それも大方衰えたようで老残の風情だが、低い枝の先端に一つだけ、ピンクに近いほかと違って不思議と色濃く、強い紅を満たした花の灯っているのが、最後の彩りだろうかと思われた。
 帰路はこの日まだ、前日のことを記さずメモすら取っていなかったので、裏を歩いた昨夜の記憶と混ざらぬようにと表の通りを選んで行った。望月の頃のはずだが、雲の掛かって澱んだ空に、月は気配のみ洩れて顔を出すには至らない。正面、西から流れる風が、柔らかく包む類のそれではあっても、やはりもう寒々と冷えた十月の夜風である。しばらく進んで、ようやくいくらか丸みの見えた満月の、しかし光の照り映えなくて、曇りガラスの向こうに収められているように朧に籠っていた。それでもさすがは望の力で夜空はわりあい明るくて、北側の森に接した端は掃かれたように、夾雑物のなく平らかに分かれて、星がないから淡い雲の混ざってはいるのだろうが、見分けられないほどだった。