2017/10/10, Tue.

 部屋で読書をしているあいだに背後の窓から暖気の寄ってくる晴れの日、外では風がぶつかりあっては先端で擦れるさまを思わせるようなアオマツムシの鳴き声が、間を置きながら上がり続ける。しばらくののちベランダに出ると、柵に干されたタオルの面[おもて]に明るんでいる二時半の陽射しの、時間のわりに色合いの濃くて、昼下がりでも太陽がだいぶ低くなったのだろうと、季節の移りを思わせた。
 家を出たのは三時の半ばで、坂の入口で振り向けば、西に溢[こぼ]れる金色の光の霞と化して山を籠め、水色の澄んだ南には雲はひとひらというほどもなくて、絶え入りそうな幽かな滓の一つ付されたのみである。久しぶりの厚い陽射しに、臑の肌にさえあるかなしかに汗の気配が感じられた。居間の気温計はほとんど三〇度まで傾いていたようだ。晴れ晴れとした青空から降る陽に包まれて歩いていると、向かいの通りで女子中学生が、日傘を被って帰って行く。
 夜には裏通りを行くあいだじゅう空気が動き回って止まらず、西から向かい風の途切れずに流れ続けて、夏と秋の狭間に立ち戻ったかのような心地良さだった。涼気の合間に昼間の暑気の名残が留まって、歩くうちにまた汗の温もりの籠ってくるようでもあった。アオマツムシの復活したなかを抜けて表に出ると、東の端に昇ってまもない弦月が見える。皮膚がめくれて肉の覗いた傷口のように夜空をそこだけ切り取っている朱色の半円の、弧を丘に向けて左下にして、これから昇って行くよりは地上に落ちる間際のようだった。