2017/11/27, Mon.

 まず最初に、七時に目を覚ましたらしい。三時間半の睡眠なので、さすがにこれではとまた眠りに就いたところ、例によって一一時に至ったが、七時間半の長さなので悪くはないと評価されたようだ。起き上がってみて身体の重さもあまりなかったようで、深呼吸の効果はやはりあるらしいと判断したと言う。瞑想も呼吸を深くするように心掛けて、そうすると布団に隠した手指の先まで、相当に温かくなったらしい。上階に行くと食事を取り、そのかたわらいつものように新聞を読んだが、いま手もとに二七日分の新聞がなく、取ってくるのも面倒なので記事の題名は省略する。エジプトの事件の続報と、天皇の退位関連の連載を読んだようだ。
 この日は緑茶でなくて蕎麦茶を用意して、室に戻ると日記の読み返しをした。二〇一六年一一月二〇日日曜日のものである。「雨のよく降るこの星で」を始めた当初の考えが記されていたので、次に引く。曰く、「ブログにふたたび文章を公開しはじめたからといって、そのために文を緻密に組み立てて書くつもりはない(そうした欲望が出てしまうこともあるのだが、それはこの日記という、日々の営みにおいては余計なものである)。自然な習慣として綴ったもののなかから、公開に値するものが生まれれば良し、一つもない日があってもそれもまた良しというわけだが、抜きだしたものを読み返してみると、そうした姿勢のわりにはなかなかによく書けているのではないかと自画自賛の情が湧いた。正直なところ、ある瞬間との遭遇を逃さず捉え、精神をうまく働かせてそこにある情報を十全に拾うことができれば、このくらいのものはいくらでも書ける。そのくらいの実力は既についているわけで、作品をこしらえるための準備は、着々と進んできたと言えるかもしれない。日記はこの先、おのれの心に引っ掛かったものを何であれ取り入れ、拡大させながらも、ますます自然なものに、以前使っていた言葉で言えば、「一筆書き」のようなものにしていくことを目標として、言葉を構成するという欲望の方は、作品が受け持つことになるだろう」。こうした姿勢でいたはずのところ、どういうわけなのかいつの間にか「文を緻密に組み立てて書く」という欲望のほうが優勢になってしまったわけだが、そうした時期を経由していまはこの当初の考え方に回帰していると言えるだろう。
 過去の日記を読んだあとは、tofubeatsの曲を流して運動をした。それからインターネットを覗いたり、Oasisを歌ったりしたのち、二時過ぎから文を記しはじめた。まずこの日の朝からのことをメモに取り、二三日の新聞から少々書抜きをしたあと、二四日の日記を進めた。三時になったら洗濯物を畳んだりアイロン掛けをしたりしようという頭があったが、実際には三時半まで書き物を続けることになった。上階に行くと、うどんを食うことにした。(……)台所に立って、Oasisの"Wonderwall"を口ずさみながら、玉ねぎと葱を切り、煮込みうどんを拵えると、卓に就いて食事を取った。その後、米がなくなっていたので新しく研いでじきに炊けるように手配しておいたり、服にアイロンを掛けたりした。そのように家事をこなしていると四時半が過ぎる。下階に行って歯磨きをし、Suchmos "STAY TUNE"を流しながら服を着替えると、出発した。
 この日は生活のあいだも呼吸をゆっくりするよう心掛けていたのだが、歩きながら欠伸が湧いてくるのも、精神がリラックスしている証ではないかと考えた。坂道から見下ろす銀杏は、暮れ方の暗さのなかでさすがにもう色が見えない。(……)寒さはさほどのものでなく、風が流れても身が震えるようなことはない。街道に来て目を細めると、道路を次々と走り去る車のライトが瞳に向けて一斉に伸びてきて、その光の筋で視界が狭くなる。裏通りに入ってからも、自らの呼吸に目を向け、腹がへこむくらいに吐ききることを意識しながら歩いて行く。下校中の高校生らが周囲を歩いており、前後から挟まれるのに大抵の場合は居心地の悪さを感じるのだが、この日はそんなこともなく、やはり心が落着いているなと確認された。実際、気分はかなり緩やかなものだったようである。空き地に差し掛かると、敷地の端のほうにカラーコーンが置かれており、保安灯の明かりがその頭で色を変えながら明滅しているのを見つめて過ぎた。坂を渡ってすぐのところに最近新しく焼肉屋ができたのだが(よくこの町で新しい商売をやろうとするものだと思う)、その建物の裏口にあたる小さな戸の隙間から、猫が顔を出してみゃあみゃあと鳴いている。そこに近づく前から声が聞こえて、通りのなかに響いていた。
 帰路もやはり、それほどの寒さではなかった。労働を終えたあとでほっとするかと言えば、むしろ行きの道よりも気怠いようで、歩調がのろくなっていた。帰宅するとゴルフボールを踏むことはせず、すぐに食事に行く。(……)夕刊にはオノ・ナツメのインタビューが出ている。『ACCA13区監察課』の単行本がすべて発売されて切りがついたのを機にしたものらしかった(オノ・ナツメという漫画家の作品は、以前に『さらい屋 五葉』というのを全巻読んだことがある)。食後、流しに食器を持って行ったが、何かすぐに皿を洗う気力が湧かず、ソファに就いてしまったものの、ここでも"Wonderwall"を口ずさんでみるとそれに引かれて頭のなかに音楽が流れ出し、その勢いに乗るようにして立ち上がることができた。食器に始末を付けると自室に帰り、緑茶を飲んで一服しながらインターネットを回った。その後、入浴を済ませて出てくる(……)。
 その後、零時前から二四日の記事に取り掛かった。書いているあいだ、時間がゆっくりと流れているような感じがあり、折に触れて時計を見る時にも、もう、ではなくて、まだこのくらいの時間かという気持ちのほうが明確に立った。このような泰然として軽い心持ちを常に保ちたいわけだと独りごちて文を落として行き、二時に至るとインターネットに繰り出して遊んだ。そうして四時から短く瞑想をして、就寝である。