2019/5/10, Fri.

 例によって午後一時まで糞寝坊。一応九時に携帯が鳴るようにアラームを仕掛けてあって、携帯が所定の場所から机の上に移動していたので、一度起きてアラームを止めたのだと思うのだが、記憶がまったくない。一時に至って職場からのメールが入ったその振動音で何とか意識を晴れさせることができたという体たらくである。メールは、証明写真がやはり必要であること、そして今日の夜に早速仕事に入ってくれないかという頼みを伝えてくるものだった。来週からと聞いていたので、昨日の今日でいきなり仕事を始めるのは面倒臭いなという気分になり、頼みは断ることにした。返信を送っておき、それからもちょっと布団のなかでごろごろしてから起き上がって上階に行った。母親はどこに行ったのか不在で、足拭きをあとで入れてくれという書き置きとともに、胡瓜の漬物と切り分けられたオレンジが卓上に置かれてあった。漬物をその場でつまんで食べてしまい、それから台所にも鮭などがあったのだが、これらは今は食べないことにして冷蔵庫に入れ、代わりに豆腐を一個取りだして皿に出して電子レンジに突っ込んだ。二分間、加熱しているあいだに卓で新鮮なオレンジを食べ、温まった豆腐に麺つゆを掛けてそれも食べると、抗鬱剤ほかを飲み、食器を洗った。そのまま浴室に行ってゴム靴でなかに踏み入り、浴槽のなかに入って手摺を掴んで身を屈めながら、四囲の壁や床を掃除した。そうして出てくると下階に戻ってコンピューターを点け、例によってYさんとやりとりをしつつ、前日の記録を付けたり、この日の記事を作成したり、FISHMANS『Oh! Mountain』を流しだしたりした。日記を書きはじめたのが一時五〇分、先にこの日のことをここまで一〇分も掛からず記して、これから昨晩のことを書かなければならない。
 FISHMANS『Oh! Mountain』及び『空中キャンプ』とともに前日の記事を仕上げると、二時四五分だった。そこからブログやnoteに記事を投稿し、三時過ぎからベッドに乗って腹筋運動を行った。しかしこんなことで――この程度の運動で――本当に腹回りを今よりもスマートにできるのだろうか。そうして三時一五分から『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』を読みはじめたのだったが、例によって布団を被っているとあれほど眠ったと言うのにまたもや眠気が差してきて、ヘッドボードとのあいだに差し入れたクッションに凭れてしばらく目を閉じ、微睡んだ。その後も読書には完全には復帰できず、姿勢も臥位にしてしまい、眠るわけではないけれど何をするでもなくただ布団に包まれて目を閉じていた。ひらいた窓から涼気が流れこみ、外では様々な鳥の声がぴちぴちと響いているなか、ぬくぬくとした温かさにまみれて長いあいだ臥していた。それであっという間に六時を迎えた。今日は金曜日なので、母親は「K」の仕事で遅くなるのだったと思い出した。それで食事の支度をしなければならないので一念発起してベッドを抜け出し、上階に行って冷蔵庫のなかを覗いた。大した材料はなかったが、野菜炒めを作れそうだったのでそれにするかと決めて、玉ねぎ、人参、白菜と、冷凍庫にあったしゃぶしゃぶ用の豚肉を取りだした。そのほかにジャガイモが結構あるのでそれを味噌汁にすればよかろうということで、調理に取り掛かった。白菜・玉ねぎを切り分け、人参を千切りにして笊に集め、切り終わるとフライパンにオリーブ・オイルを引いてチューブのニンニクを落とした。ニンニクがじゅうじゅう音を立てて加熱されているあいだに水を一杯飲み、それからフライパンの前に立って野菜を投入した。溢れんばかりの量だったので、少しずつ木べらで搔き混ぜて強火で加熱し、時折りフライパンを覚束なげに振って野菜を引っくり返した。そうしていると零れるものが出てくるのでその都度拾いながら進め、ある程度野菜に火が通ったところで肉を投入したのだが、これが解凍したのだけれどまだいくらか凍っていたので、赤味がなくなるまで結構時間が掛かった。肉にも火が通ると塩胡椒を全体に振りかけて完成、それから小鍋に残っていた前日の汁物を椀に取っておき、鍋を洗って改めて水を汲んで火に掛けた。そのあいだにジャガイモの、悪魔的に蔓延った芽を包丁で抉り取り、それから皮を剝いて櫛切りにした傍から湯のなかに投入していった。煮ているあいだに一度下階の自室に戻り、TwitterでCさんに返信をしておき、手帳を持って戻ってくると鍋は吹きこぼれんばかりに煮立っていたので火を弱め、灰汁を取ると粉の出汁、椎茸の粉に味の素を振り入れた。それからしばらく手帳を眺めながらジャガイモが柔らかくなるのを待ち、一つ取りだして食べてみて火が通ったのを確認すると、冷蔵庫から味噌を取りだして溶かし入れた。それで完成、居間のカーテンを閉めておき、下階に戻るとすぐにBill Evans Trio『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』(Disc 1)を流しだし、日記をここまで書けば七時を回っている。
 上階に行き、帰宅した母親に挨拶をした。そうして台所に入り、冷蔵庫から昼間の鮭やジャガイモの煮物の残りを取りだして、汁物の残りとともに電子レンジに突っ込んだ。一方で野菜炒めを大皿によそり、ジャガイモの味噌汁も椀に掬い入れたので、この日の食卓には汁物が二種類並ぶことになった。卓に就き、塩胡椒で味付けした野菜炒めを食べ、電子レンジの駆動が止まるとなかの皿を食卓に持ってきて、食事を続けた。痩せたいので――そんなことで本当に痩せられるのか疑わしいが――米は少量にした。食べ終えると薬を服用し、食器も洗って一旦下階に戻った。『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』を四〇分ほど読んで八時も回ったあと、そろそろ父親が風呂から出たかなと上階に行くと、一旦帰ってきたはずの――下階に下りてまもなく、音がしたのだった――彼は何だか知らないが会議に行っていて不在だと言うので、入浴に行った。外から散文的で色気のない虫の音が入りこんでくるなか、湯を浴びて、出てくると即座に自室に戻り、ふたたび読書を始めた。上半身裸で窓を開け、しかし布団も身体に掛けながら読んでいると、何故かまたもや眠気のような感覚が差してくる。あれほど眠り、昼の読書時にも休んだのに、何故こうも眠くなってばかりいるのか。それでしばらく目を閉じる時間を挟んだが、何とか書見を進めて、『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』を読み終えた。最後の章である池田喬「自立と依存――哲学的考察の行方」を読みながらメモを取っていなかったので、もう一度読み返してしばらく手帳にメモ書きをしたのち、コンピューターに寄ってみると、Skypeのグループに新しい人が二人やってきていた。Bさんという方と、Nさんという方だった。それとYさんを含む三人で一〇時半頃に一旦通話を始めたが、すぐに解散したらしかった。その後、一一時ちょうどにもう一度通話をするとYさんが呼びかけていた。こちらは一〇時四〇分から日記を書きはじめて、ここまで一〇分ほどで速やかに綴った。
 一一時から通話が始まった。こちらは『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』の書抜きをしていたので、チャットで参加した。新しく参加したBさんに、好きな本は何ですかと尋ねると、澁澤龍彦の名が挙がった。彼女は若干一八歳でありながらサドなども読んでいて、中学の頃から澁澤も読んでいると言うので、また一人、ホラー・エリートが増えたなと思った。しばらくチャットで会話して、一一時半頃になって書抜きを終えたので、ミュートを解除して会話に参加した。そこで改めてBさんに、例の、一番好きな小説を教えてくださいよという質問を投げかけると、その前に夢野久作の話をしていたので――彼女のTwitterの固定ツイートに設定されている、好きな小説一〇選みたいなもののなかに夢野久作の名前があったので、このあと、夢野久作の研究をしているIさんという方が来ますよと話していたのだ――彼女は、夢野久作だと、「ココナッツの實」と「氷の涯」だと言った。「氷の涯」と言うのは、日本、満州、ロシアを跨いで壮大な陰謀が繰り広げられる小説であるらしく、その構成が凄いという話だった。彼女は夢野久作のなかでも、異国のことを描いたような種類の作品が特に好きであるらしい。
 しばらくBさんと話してから、そう言えば今日は新しい方がもう一人いるんでしたねと言って、チャットで参加していたNさんに話を振った。どんなものを読むのかと訊くと、純文学、哲学、幻想文学の類だということだった。こちらの日記もたまに読んでくれているらしいので、ありがとうございますと礼を言い、彼もしくは彼女にも一番好きな小説はとの質問を投げかけると、難しい……という返答があったので、難しいですよねと笑った。こちらの場合は『族長の秋』とか、『灯台へ』とか、Mさんの『亜人』とか、もう定まっているのだけれど、読書家であるほど色々な凄い本を知っているだろうから一つに絞るのは難しいだろう。音楽のことを考えてみればそれはこちらにもよくわかる。それで、Nさんは、考えた挙げ句に、ダンテの『神曲』になりそうだと言ったので、古典派ですねえと驚いた。「あれほど緻密に幻想を練り上げたものはない」との評価だった。また、哲学だとどんなものを読むのかと問うてみると、古典から現代まで雑多に色々と読んでいるという返答があったので、現代のものを読めるのは凄いなと反応し、今は何を読んでいるかと続けて訊けば、ブルデューの入門書だと言った。そこでBさんが横から、自分は哲学がとても苦手だと言葉を送ってきた。彼女は好きな小説のなかに出てきた本や作家のものを読むという癖があると言い、伊藤計劃の『ハーモニー』のなかにフーコーの言葉が出てきたので、フーコーのものを読んでみたのだが、誇張ではなく二行で眠ったと話した。一八歳でフーコーなど読めたら相当な秀才である――浅田彰なんかは一五歳で柄谷行人のサド論か何か読んでいたらしいが! それを受けてNさんが、最初からフーコーというのは相当に厳しいでしょう、最初はプラトンの対話篇から入るのがやはり基本ではないかと発言したので、あれは要は戯曲ですからね、文学としても楽しめるとこちらも応じた。
 その後、Iさんが通話に参加したので、Bさんと引き合わせて、夢野久作について話を交わしてもらった。Bさんは先に書いたように夢野久作のなかでも異国情緒が香るようなものが好きだと言うが、Iさんは逆に日本的なものの方が好きだという話だった。色々と作品のタイトルが出ていたが、全然覚えられていない。それからIさんに、小説を読ませていただいて、ありがとうございましたと礼を言い、素晴らしかったですよと好評価を伝えた。Fさんに褒められると嬉しいですねと彼は言うので、何でですかと笑って返したところ、いや、読書家じゃないですかと言うが、このグループには自分などとても及ばないほどの読書家がごろごろいる。Iさんの小説についてはさらに、固めの難しい語彙を使っているのだが、それが違和感なく文体のなかに馴染んでいた、こちらは「霏々として」という表現など初めて知った、と感想文にも書いたことを伝えた。それで、グループのほかの皆さんにも読んでもらったらどうですかとこちらは提案し、それに応じてBさんなども読みたいですと言うので、グループのチャット上に彼の小説がアップロードされた。そこで通話を聞かずにチャットで参加していたY.Cさんが、I氏の小説ですか? と訊くので、そうです、是非! とこちらが勧めると、何故F氏が……という反応があったので、笑ってしまった。「僕も読んで、面白かったので」と答えておき、それからほかの話としては、ショーペンハウアーの話題などがあった。Iさんはショーペンハウアーが結構好きなようで、諏訪哲史の『アサッテの人』のなかに彼の詩が引用されているらしく、それをマイクの向こうで素早く朗読してくれた。それを受けて、Yさんが、Sちゃんがショーペンハウアー好きなんだよねと言って、チャットで参加していたK.Sさんに話が向いた。彼女は叔母がショーペンハウアー好きだったのだと言う。その頃にはAさんも会話に参加してきて、そこから画家の話になったのだったと思う。彼女がハンマースホイというデンマークの画家の名前を出すと、Sさんはチャット上で強烈に反応し、ハンマースホイは世界で一番好きな画家だと言った。その勢いで彼女は思わずといった調子でチャットからマイクをオンにして通話に移行し、Aさんと二人で美術について語っていた。Iさんは美術だと、マックス・クリンガーという画家が好きだと言って紹介していた。あと、AさんがTwitterのアイコンにもしているワッツという画家。ほか、マックス・エルンストの名前なども話題にちょっと出ていた。
 そのほか話したこととしては、Iさんが小説のなかに使っていた「廃市」という言葉から、福永武彦の名前なども出た。この「廃市」という言葉は元々北原白秋が用いたものであるらしいのだが、福永武彦はそれを援用して『廃市』という小説を書いたわけだ。福永武彦ってちょっと何だかマイナーな感じがするとIさんが言うので、確かにそうかもしれませんねと応じながら、自分の通っている精神科の先生は、東大だったんでしょうね、若い頃は仏文の人たち、大江健三郎とか福永武彦のものを読みましたと言っていましたと話した。そのほか、彼は『古事記』も訳していますよね、河出文庫に確か入っていましたと言い、『古事記』で国造りをする神ってイザナキとイザナミじゃないですか、でも本当はそれよりも前に一〇体くらい神がいるんですよ、しかしそれらの神はことごとく姿を隠してしまうんですと紹介し、以前も書いたことがあるのでここには繰り返さないが、例の、イザナミから声を掛けてまぐわったところ国造りに失敗し、男であるイザナキから声を掛けたところ成功したという男尊女卑的な観念を思わせるエピソードなどを語った。
 Iさんはそのほか、中井英夫は――彼は中井英夫が一番好きな作家で、彼に生涯を捧げるつもりであるらしい――日記も面白いと話した。中井英夫には男の恋人がいたらしいのだが、その人が病気で衰弱している時に、中井英夫本人は家でジントニックなど飲んで酔っ払いながら自己嫌悪に耽っている、そのあたり面白く、また可愛らしいところだということだった。
 一時を越えたあたりでこちらはマイクをミュートにして、洗面所に立ち、歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に突っ込んだ。すると父親が階上からゆっくりと下りてきたので、口のなかをもごもごと言わせながらおかえりと挨拶し、寝室の方へと去って行こうとする彼に向けて、来週から仕事に復帰するよと伝えた。前に話していたように、最初は例えば無給で、試験的な感じで出来るのかと、そう訊くので、そうではないが、最初は一コマだけ、それも多分二人相手にしてくれると思うと返した。また頑張っていこうと彼は言うので同意し、おやすみと別れて自室に戻り、通話を聞きながら歯を磨いた。口をゆすいできてからのちは通話には復帰せず、チャットで参加し続け、一時四〇分くらいになったところで、今日はこのあたりで失礼しますと言って離脱した。それからベッドに乗って、窓をひらき、涼気を取り込みながら『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』のメモの続きを取るとともに、岸政彦『ビニール傘』を読みはじめた。ぱらぱらをめくった時の字面の感触と言うか、何となくの直感としてあまり期待していなかったのだが、いざ読んでみるとわりあい面白い形式が散見されて、そのあたりについては追々また綴れたら綴ってみたいところである。二時四五分まで一時間読んで就床。


・作文
 13:49 - 14:45 = 56分
 18:54 - 19:07 = 13分
 22:42 - 22:53 = 11分
 計: 1時間20分

・読書
 15:16 - ? = 1時間?
 19:35 - 20:13 = 38分
 20:43 - 22:40 = 1時間57分
 23:07 - ? = ?
 25:45 - 26:45 = 1時間
 計: 4時間35分

  • 『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』: 132 - 201(読了)
  • 『いま、哲学が始まる。 明大文学部からの挑戦』明治大学出版会、二〇一八年、書抜き
  • 岸政彦『ビニール傘』: 7 - 41

・睡眠
 2:00 - 13:00 = 11時間

・音楽

  • FISHMANS『Oh! Mountain』
  • FISHMANS『空中キャンプ』
  • Bill Evans Trio『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』(Disc 1)
  • Leopold Stokowski: New Philharmonia Orchestra『Tchaikovsky: Symphony #5; Mussorgsky/Stokowski: Pictures At An Exhibition』