Bill Evans Trio『The 1960 Birdland Sessions』

March 12, 1960
1. Autumn Leaves [Prevert - Kosma - Mercer]
2. Our Delight [Tadd Dameron]
3. Beautiful Love [Young - Van Alstyne] / Five (Closing Theme) [B. Evans]

March 19, 1960
4. Autumn Leaves
5. Come Rain Or Come Shine [Arlen - Mercer] / Five (Closing Theme)

April 30, 1960
6. Come Rain Or Come Shine
7. Nardis [Miles Davis]
8. Blue In Green [Evans - Davis]
9. Autumn Leaves

March 12, 1960
10. All Of You [Cole Porter]
11. Come Rain Or Come Shine
12. Speak Low [Weill - Nash]

Bill Evans: piano
Scott LaFaro: bass
Paul Motian: drums

Recorded Live at Birdland Club, New York City, 1960
Symphony Sid Torin - M.C.

SOUND HILLS
FSCD 2038


2019/11/24, Sun.

 さらに、Bill Evans Trio "Autumn Leaves"(『The 1960 Birdland Sessions』)を流した。このテイクは一九六〇年の三月一二日録音である。まずLaFaroのソロから始まっていて、録音が非常に悪くて聞き取りづらいものの、お得意の三連符を連ねて大きく動く速弾きが聞かれて、その闊達ぶりは『Portrait In Jazz』でのプレイよりも発展していると思われる。Motianのプレイも聞き取りづらいが、ハイハットを無意味に素早く三連で刻むところなど、彼特有の気まぐれさが段々と発揮されてきているような気がする。Evansのソロは、前半は六一年のあのライブに比べるとちょっとゆったりしていると言うか、休符の間隔=感覚などに僅かな弛緩が感じられないでもないが、後半のブロックコードの連打はさすがの盛り上がりで、これはきちんとした明瞭な音質で聞けていたら実に迫力があっただろうと思わされた。

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2019/11/26, Tue.

 次に、同じくBill Evans Trioの、『The 1960 Birdland Sesions』に移って、冒頭の三月一二日録音の"Autumn Leaves"。やはりこの段階ではMotianの独自性が発揮されはじめているように思う。フォービートに入る前、テーマでのハイハット――だと思うのだが――の無闇な連続、流れを躓かせるような、がたつかせるような連打の差しこみ方は、やはり彼特有のものだろう。諸所でのLaFaroの振舞いと同じように、何やってんねんこいつ、と思わず突っこみたくなるような、通常の整然性から逸脱した感じがある。その後も、スネアの刻みなどが妙に一瞬だけ細かくなるような場面が何箇所かあったと思う。LaFaroはソロ以外の場所では尋常なフォービートを演じているようで、Evansのソロは先日聞いた際と同じく、前半はやや緩めだが後半に掛けて盛り上がってくるという印象である。

 ふたたび音楽を聞いた。最初に、Bill Evans Trio, "Autumn Leaves"(『The 1960 Birdland Sessions』: #1)である。今度はLaFaroに耳を傾けてみたのだが、ソロでの動きの大きさは『Portrait In Jazz』のテイクよりも明らかに増していると思う。テーマ前半でも、あまりよく聞こえないのだが、高音部まで上昇してEvansと絡んでいるようだ。その後、テーマ後半以降はほとんど尋常なフォービートを演じるものの、終盤に至ってふたたび始まるインタープレイにおいては、細部での突っこみの鋭さなど、『Portrait In Jazz』よりも勢いが強く、六一年のライブに近づいているようにも思われる。
 次に二曲目、"Our Delight"。ここではEvansは概ねバップピアニストに徹しているが、それでも結構多彩な技を織りこんでおり、無理矢理突っこむような場面があったりとか、唐突に流麗な速弾きをひらいてみたりとか、リズムの散らし方やペースの作り方が、六一年のライブのあの一定性、不動性とは幾分違うような印象を受ける。ソロの終盤からよくやるお得意のコードプレイ、右手と左手でタイミングを合わせてリズムを分厚く強調する例の技も控えている。リズム隊はこの曲においては基本的なフォービートのサポート役として振舞っており、LaFaroはソロがいくらかあるものの、一部リズムがもたついているように聞こえて、そこまで奮わないような印象である。Paul Motianはソロを聞いてみると、二拍三連を組み合わせるフレーズだとか、スネアロールからシンバルにふっと飛ぶ流れだとか、シンバルをバシャバシャ鳴らして中間部の空白を広くひらく手法だとか、キックの奇妙な散らし方だとか、彼らしい点が散見されるように思う。やはり例えばPhilly Joe Jonesなどとはかなり違うフレーズの作り方をしているのではないか。
 三曲目は"Beautiful Love - Five (Closing Theme)"。ピアノソロの序盤においてLaFaroが痙攣的な三連符の連打を組みこんでいて、突っこんできたなと思った。終盤でも同様に、今度は同音の連続だが細かい強打があって、彼の野蛮さが諸所に垣間見えるようだ。それに引き換えMotianは、二拍四拍で整然と刻んで随分と大人しい印象である。Evansのソロは後半で例の左手のコードと合わせた技法が披露され、畳みかけるようなそのプレイは迫力満点で、ライブならではの熱が籠っていて圧巻である。聞き返してみないとわからないが、『Explorations』のスタジオ録音のバージョンよりも、随分と熱く演じているのではないか。ただ、ソロの終わりで無闇な速弾きを散らしてぎこちなく終えるのは、唐突感があってあまり彼らしくなく、せっかくそれまでの演奏で構築してきたまとまりに最後でいくらか綻びが出て、統一感が損なわれてしまっている。LaFaroのソロも結構なものなのだろうが、音質が悪いせいで細部で何をやっているのか聞き取りきれず、評価がしにくい。とは言え、伸びやかな部分と細かなフレーズと、わりあいにバランス良く配分して歌っているような感じはする。

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2019/11/29, Fri.

 さらに、Bill Evans Trio, "Autumn Leaves"(『The 1960 Birdland Sessions』: #4)。これは三月一九日の音源で、すなわちこのアルバム冒頭の"Autumn Leaves"の一週間後に演じられた同曲のテイクである。一曲目のテイクではLaFaroのソロから始まっていたが、今度は尋常に、『Portrait In Jazz』のテイクと同様の始まり方をしており、スタジオ盤のテイクにライブならではの熱が付け加えられたといった感じだ。ベースソロはLaFaroがリズムの補助もなしに完全な独奏で演ずる場面が長く、店の客の笑い声やざわめきによって細部まで聞き取るのが難しく、またリズムも自然な揺らぎを帯びているのでついていくのがなかなかスリリングなのだが、やはりライブなのでフレーズの動きはより大胆になっているのではないか。Evansも単音でのソロ前半はともかく、後半の盛り上がりはスタジオ音源よりも一歩先まで踏みこんでいるように思われた。派手に畳みかけるような三連符の連なりも披露し、リズムの構成に変化をつけた場面も一部あって、その点、六一年の不動性とは微かに異なる感覚も覚える。六一年時点でのこのトリオが"Autumn Leaves"の演奏を残すことがなかったのは、実に惜しいことだ。それにしても、今や伝説となっているこの時期のBill Evans Trioは、三月一二日のテイクを考慮に入れてみても、これほどの演奏を霊感に導かれた特別のものとしてではなくて日常的に提示することができたのは疑いないのだが、それはまったくもってとんでもないことである。この三人はやはり化け物だ。

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2019/12/1, Sun.

 それで最後に、『The 1960 Birdland Sessions』から五曲目、"Come Rain Or Come Shine - Five (Closing Theme)"を流した。三月一九日の録音である。一聴してLaFaroは結構動いており、『Portrait In Jazz』のスタジオ録音に比べると三者の特徴が諸所で如実に感じ取られるものの、"Alice In Wonderland (take 1)"の非常に高度な流動性のあとでは、よほど尋常なピアノトリオに聞こえる。この三人としては標準的な演奏というところだろう。LaFaroのソロは、やはり六一年よりもフレーズが細かくペースが速めなようで、悪く言えばいくらか性急なところがあるように思う。

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2019/12/3, Tue.

 さらに、Bill Evans Trio『The 1960 Birdland Sessions』から、"Come Rain Or Come Shine"。四月三〇日の録音である。LaFaroがまたやたら好き勝手やっており、傍若無人に我が道を行っていて、まさしくScott LaFaroがここにいるな、という感じを受ける。彼のプレイを聞き違えることはない。ただ動き回るというのではなくて、その自由闊達ぶりにも特殊さがあると思われる。それは野蛮さと言うか我が物顔的なところと言うか、洗練することなどいかにも容易なのだがそのようなありふれた洗練など知ったことかと敢えて突き放しているような傲岸さの感覚で、行儀良くまとまるということに対して拒否感を抱いているかのような印象を受けるのだ。ところでこの音源では録音の質が変わったようで、ベースが前面に出て太く録れており、ピアノの音はきゃらきゃらしたような質感を帯び、一方でドラムは引っこんでほとんど聞こえなくなってしまっている。演奏としてはピアノはEvansには珍しくやや煮え切らないと言うか、全体に間を取りすぎているような気がして、諸所で遊びのような、普段と違ったペースの取り方がいくらか見えるのだが、それがかえってちょっとぎこちなく聞こえないでもなかった。
 続いて、"Nardis"。テーマの提示は尋常のものである。ピアノソロは、鮮烈な音使いが散見されるものの、やはり間の取り方、そのバランス、全体的な統一性が最高度に整ってはおらず、この日のEvansは六一年六月二五日の天上的な高みには達していないようだ。勿論だからと言って、とても凡百の演奏ではない。Motianはここでは極々普通のサポートをしているのだが、この曲ならもっと遊べるだろう、もっとリズムを拡散させ、崩してしまって良いだろうと思った。ベースソロはかなりダイナミックだが、しかし同時に逸っているような感じもどこかにあるようで、LaFaroも六一年と比べると、この時期は全体にそうしたやや性急なような印象を受ける。

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2019/12/6, Fri.

 まずは八曲目の"Blue In Green"である。四月三〇日録音。スタジオ盤よりもLaFaroの動きは多く、わりあい長めに用意されているベースソロでも、序盤ではトレモロ的な連打で装飾を添え、終盤では大きなグリッサンドを繰り返してダイナミックである。一方、ドラムは音質の劣悪さの犠牲になって全然聞こえてこず、後半から辛うじて耳に入るものの、前半はほとんどピアノとベースのデュオのように聞こえる。拍子のキープが明瞭に耳に届かず、さらにベースソロはリズムとして結構緩い箇所もあって、途中で拍頭が明確にわからなくなるような演奏になっている。Evansのピアノは綺羅びやかと言うか、録音のせいでやけにきらきらしたような質感に聞こえるものの、フレーズの明快な連ね方などはさすがで、上昇してくるベースとの絡みも上手く嵌まっている。ただやはりライブなのでいくらか粗さが感じられるような気もして、隙なく静謐に整った世界観の構築度で言えば、隅まで緊張感が行き届いて折り目正しいスタジオ盤の方が上ではないか――とは言え、このライブは客のざわめきなども入っていて雰囲気としても猥雑だし、そもそも録音の質が違いすぎるので単純な比較もできないのだが。
 次に九曲目、"Autumn Leaves"。同じく四月三〇日の録音である。冒頭、テーマの半分まではLaFaroは高音部にグリッサンドしながらほとんど同じ音を繰り返しているのだが、コードが変わっても動かず同位置を保つことで、サウンドに奇妙な浮遊感が生まれている。テーマ後のベースソロは伴奏なしの完全な独奏が長く続き、リズム感が自然に揺らいでいながらもフレーズはコードに上手く密着して拍頭は比較的わかりやすいようになっていて、ついていくのがなかなかに面白い。途中で弦がビビる音が何度か大々的に入っているが、これは表現として意図して利用したものなのだろうか。ベースソロ後、三者でのインタープレイは緊張感に満ちていながらも、最後では連打を突っこんでちょっと遊ぶ余裕も見せている。ピアノソロの緊密さはあるいは『Portrait In Jazz』のテイクを越えているかもしれず、熱の籠り方も上々で、スタジオ盤では行儀良く抑えていたところを、もう少し奥まで突っこんでみようと境を少々踏み越えているような感触だ。そのほか後テーマのベースにおいて見られるものだが、八分音符三つを一単位としてリズム感覚をずらす捉え方など、全体的にスタジオ盤を下敷きにしながらも、さらに細かいところで発展させることに成功しているのではないか。このライブ音源には"Autumn Leaves"は三つ収められているけれど、このテイクが一番面白いかもしれない。

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2019/12/9, Mon.

 Bill Evans Trio, "All Of You"(『The 1960 Birdland Sessions』: #10)である。三月一二日録音。まずもって、六一年六月二五日の"All Of You"の三テイクには共通して幻視されるあの銀白色めいて清冽な和音感覚が見られないことに驚かされる。この六〇年三月一二日のバージョンにはまだ何か温かみのような色合いが残っているようで、おそらくコードワークが何かしら違っていて、六一年の方はより複雑なリハーモナイズが施されているのだと思うが、細かなことは無論こちらの鑑賞眼には余る。演奏内容に触れると、まず冒頭、テーマの半分はリズムパターンが固められていて、これにはちょっと野暮ったい印象を受けないでもなく、六一年の、シズルシンバルなどを生かした不定形の流体性の方が好ましい。ピアノソロが始まった途端に耳につくのは、やはりLaFaroの暴れぶりである。相当に我が物顔で動き回っており、一年後よりもむしろ遠慮なく、威勢良く燥いでいるような感じで、リズムの引っ掛け方や起伏の作り方などは部分的には六一年を越えているようにも思われるものの、幾分遊びが過ぎると言うか、緊密な統一性の感覚では劣るか。ベースソロはお得意の三連符の速弾きを聞かせる場面が多く、個々の部分が滑らかに、流麗に確立されていながら、全体としても一つの流れというものが定かに組み立てられており、この音源全体のなかで見てもかなりまとまっている独奏で、あるいはベストかもしれない。ただし、速弾きの多さはやはり性急さの印象に繋がる面もあり、途中、細かなフレーズが続くことでかえって単調さを覚えさせる瞬間もあったようだ。全体的な演奏の感触としては、澄み渡った統一性を湛えた六一年の霊妙で美しい色彩よりも、バップ的な色味が微かに残っているような軽妙さの感覚が濃い。それでも相当な演奏であることに間違いはないのだが、と言って、テーマやピアノソロ前半でのLaFaroの過剰な多動性を聞くと、彼はまだこの曲でのEvansとの絡み方、関係の作り方を掴みかねているようで、どこまでやって良いのか、どこまで抑えれば良いのか、そのバランス感覚を確定しきれていないように思われ、多分色々と模索し、試している最中なのではないか。Evansのピアノ演奏に関しては、概ね六一年と変わりない不動性、一定性で満たされているように感じるが、LaFaroの方はまだ迷いを持っているようだ。またそのほかにも、Motianのアプローチがごく基本的なものに留まっており、彼特有の拡散的な気体性が生まれていないこともあって、演奏の流動性はまだ薄い。そういった点で、このテイクは六一年の確固たる完成型に収まっていく途中の、過渡的な演奏なのだと考えられる。そのように未完成で、まだまとまりきっていないが故の、幾分いびつな粗さに面白味を感じることもできよう。

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2019/12/10, Tue.

 今日、まず聞いたのは、Bill Evans Trio, "Come Rain Or Come Shine"(『The 1960 Birdland Sessions』: #11)である。三月一二日録音。LaFaroはここではいつものように音楽空間を滑らかに縫うような音使いを見せていながらも、"All Of You"のように過剰な多動性によって突出してはおらず、Evansとの交錯のバランスが適切に整えられている。Evansはピアノソロでは冒頭近くから一六分音符を嵌めたりしており、それを聞くとちょっと急いでいるような印象を受けないでもないが、しかしその後は落着いて、着実な呼吸を作って弾いている。スケールに沿って高音部へ上っていく際など、彼には珍しく――あるいは、特に珍しくはないのかもしれないが、少なくとも六一年六月二五日とは違って――、情感が滲むかのように感じられる瞬間もあった。明晰なタッチによる強い打音の為せる技である。ベースソロは録音が悪劣なために細かな部分が聞こえてこないので、いまいち評価がつけられない。対して後テーマの後半では、ベースは動き回ることなく低音部でロングトーンを奏でているのだが、そこでは音質が悪くとも、LaFaroの低音の溢れる重厚さが伝わってきて素晴らしい。
 続いてアルバム最終曲、"Speak Low"。やはり三月一二日の録音である。テーマ部におけるピアノの左手とベースのユニゾンを提示するアレンジは、リズム的にも変化があってなかなか好ましい。演奏も全体として活気があって明朗で、このトリオは単純なフォービートをやっているだけでも相当に強力だと思わされる。Evansもともかく、リズム隊が実に強靭で、スウィンギーとはこういうことを言うのだろうと感じさせてくれるのだ。ベースソロに移るとしかし、例によって細部の音程が聞き取れないので、メロディ感覚がわからず良し悪しの判断がつけられない。Motianはドラムソロのスペースも確保されて、多少は彼らしさを見せているか。緩急を変化させながらスネアを連打するアプローチが多かったようだが、そのなかにシンバルや、無闇無造作に踏みこまれるキックを組み合わせた場面も聞かれたと思う。