2020/3/19, Thu.

 のちの一九四一年六月六日に発せられることになる悪名高いコミッサール指令〔政治委員殺害命令〕を、ヒトラーは三月一七日の時点ではじめて言外にほのめかしている。軍の報告会で、スターリンのインテリゲンツィアを「絶滅させなければならない」と明言したのだ。それから二週間と経たない三月三〇日に、居並ぶ将官たちへの演説のなかで、ヒトラーソ連に対しイデオロギー的な絶滅戦争を遂行する考えをさらに詳しく説明している。ヒトラーにしてみれば、ボルシェヴィズムは「反社会的な犯罪も同然」で、共産主義は「未来にとっての非常に大きな危険」だった。それゆえに、総統は次のように述べている。

 われわれは軍人にありがちな仲間意識を捨てる必要がある。共産主義者は初めから終わりまで仲間ではない。これは絶滅戦争である。そう心しておかなければ、敵を負かしたとしても、三〇年もすれば再び共産主義の敵と対戦することになるだろう。われわれは敵を保護するための戦争をしているわけではない。

 ソ連との戦争には「ボルシェヴィキのコミッサールと共産主義のインテリゲンツィアの絶滅」も含まれ、法に妨げられる可能性はなかった。

 破壊の毒には闘争をもって対抗しなければならない。これは軍事法廷にかけるような問題ではない。部隊の指揮官はこれがどういうことなのかを知っておかねばならない。[……]部隊は攻撃されたらあらゆる手立てをもって身を守らなければならない。コミッサールとGPU(秘密警察)は犯罪者なのだから、それにふさわしい扱いをしなければならない。

 第二次世界大戦の初めから、ポーランドを占領したドイツ軍は大虐殺を実行し、ポーランドのインテリゲンツィアとエリートを一掃する活動に従事していた。しかし、コミッサール指令で、ナチの戦争は新たな段階に突入する。計画的かつ系統だった大量殺戮を国と軍の首脳が命じたのは明らかで、陸軍は直接これに関与した。ヴィルヘルム・ダイストが指摘しているように、「戦争は新たな特性を帯び、国防軍は人種戦争と絶滅戦争の道具となった」のである。
 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、148~150)



  • 覚醒後、ベッドで二〇分ほど陽を浴びた。顔面に染みこむような、肌を浸けるような、瞼を貫くような光の刺激の強さである。
  • 今日は例によって「(……)」の三人、TD、T、Kくんとの会合である。固めの生地を赤白黒のチェック柄で彩ったシャツに、いつもの濃褐色のズボンを合わせ、上着には灰色のグレンチェックのスプリングコートを羽織った。
  • 春そのものと言うべき大気の円さ穏和さだった。軽装でもまるで冷たさを感じず、風も軽快に踊り戯れ、爽やかにうねる。その波を浴びて揺れる樹々から降ってくる葉鳴りに目を上げれば、林の縁に佇む梅の小木の、あまりに凡庸な比喩だがそこだけ雪が降って枝を包みこんだかのような清純な白さだった。空気には土や草の匂いが確かに含まれ、浮遊している。
  • 坂道を行く足もとには樹々の影が色淡く軽やかに、ふっと無造作に置かれたように宿っており、まるで風にすくわれ剝がれてしまいそうな様子で微細に震えている。傾斜を上っていると血液の循環が速くなり、やはり身体が暑くなって、肌がいくらか汗ばんでくる。辺りは静かだけれど鳥の声がところどころに散り、冬の大気の張り詰めた無音とは違って、空間自体に動きや揺らぎが孕まれているような、空気そのものがささめき交わしているような感じだ。
  • 駅前の桜は蕾の薄紅を、弱く朧な暈のように漂わせていた。枝と色彩の網目のなかには青空が切り取られ、寸断された小片として封じこめられている。樹に宿った淡紅の色気は鮮やかすぎず、まもなく盛りを迎えようというのにむしろまるで老いたかのような、熟したみたいな品が香って、そのなかに花がひらいて白さを点じられた枝先もいくらか見える。
  • 武蔵境のK家にお邪魔した。滞在中、何をして過ごしていたのかは、もはや大して覚えていない。Tによって新曲が二つ発表され、歌われた場面はあった。あとはそう、彼女がそのうちの一曲をジャズにしたいと言うのに応じて、TDがこちらに何かジャズボーカルの代表的な曲をと求めてきたので、Tのコンピューターを借りてYoutubeにある音源を色々と見繕ったのだった。ジャズと言うからフォービートをやりたいのだろうかと当初こちらは思ったのだったが、Tの想定していた「ジャズ」というのは本線のモダンジャズの類ではなくて、多分、いわゆる「ジャズっぽい」音楽、テンションコードなどをふんだんに用いて洒落た雰囲気を施されたポップス、というほどの意味合いだったのだと思う。Room Elevenの"Bitch"などを流したところ、今のところこのあたりが一番イメージに近いかな、と言っていたのだ。それで、参考になったかどうかわからないが思いついた音源を次々と検索して適当に流し、途中からは目的を逸脱して、自分が聞きたくなった音楽をただ流すだけの勝手気ままな振舞いに堕した。
  • TDはキーボードを弾くTに付き合って、曲のアレンジを考えたりアドバイスを与えたりしていたようだが、多分こちらはそのあいだ、ギターを弄って遊んでいるばかりだったと思う。
  • 夕食はK宅のすぐ傍にある「(……)」という妙な名前のちゃんぽんの店を訪れた。ちゃんぽんという食べ物は実に美味である。タンメンもそうだし煮込みうどんもそうだが、野菜と麺を一緒くたにして煮込んだスープという種の料理は何故あんなに美味いのだろうか。


・作文
 27:55 - 28:22 = 27分(18日)

・読書
 13:18 - 13:59 = 41分(「記憶」)
 14:03 - 14:07 = 4分(「記憶」)
 24:30 - 26:42 = 2時間12分(ジョンソン)
 28:22 - 29:02 = 40分(ジョンソン)
 計: 3時間37分

  • 「記憶」: 13 - 39
  • バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』: 137 - 183

・睡眠
 4:40 - 10:00 = 5時間20分

・音楽