2020/3/21, Sat.

 ソ連に対する絶滅戦争でナチズムと戦争の共生関係は極限に達した。それはバルバロッサ作戦開始時から明白だったことである。保安警察とSDの移動殺戮部隊、つまり特別行動隊[アインザッツグルッペン]が軍事エリアの後方で活動することを国防軍から許されたからだ。ヒムラーとハイドリヒの指揮下にある国家保安本部は軍の承認を受け、「東方の新たな占領地域の治安を維持する」事実上の指揮権を得た。前述したとおり、同様に任命された部隊がすでにポーランド占領当初から活動を開始している。犠牲者の数がポーランドで数千人だったのに対し、占領下のソヴィエト領土ではすぐに数十万人規模となった。
 特別行動隊[アインザッツグルッペン]、警察大隊、武装SSが、今では手の届く限りの場所で大規模なユダヤ人虐殺を展開していた。[一九四一年]六月と七月には兵士になれる年頃のユダヤ人男性が殺され、八月から九月には女子供が同様に殺された。九月と一〇月にはユダヤ人共同体全体の組織的な殲滅が始まった。戦前にソ連領域内に登録されていた約五一〇万のユダヤ人のうち、ドイツ軍占領地域には約三〇〇万人が暮らしていたが、このうち約二〇〇万人が殺されている。
 ソ連に侵攻する国防軍の主要軍集団(北方、中央、南方)それぞれに特別行動隊[アインザッツグルッペン]が配備され、第四の行動部隊は第一一軍に従い、ルーマニア軍とともに作戦に参加した。各隊の構成員は、配属された運転手や警察官や武装SS隊員も含め、約六〇〇人から一〇〇〇人で、それぞれ自動車化されていた。任務はドイツの支配とその世界観にとって脅威となる人間を一掃することである。一九四一年七月二日にハイドリヒが発表したように、彼らは次に挙げる人々を「処刑する」ことになっていた。

 コミンテルンの全職員(およびすべての共産党の政治家)、
 党、中央委員会、地方および地区の委員会、人民委員会議の上級、中級、および急進的な下級の役人、
 党や国家に役職を持つユダヤ人、多岐にわたる急進的分子(妨害工作者、プロパガンディスト、狙撃者、暗殺者、扇動者など)

 「処刑」の標的はかなり幅広く設定されているが、独自に判断する余地はかなり残されており、実際、特別行動隊[アインザッツグルッペン]はその網をさらに広げていた。一九四一年一〇月初旬に提出された特別行動隊[アインザッツグルッペン]C(ウクライナ北部および中央部で任務の遂行にあたった)の報告書には、隊員による処刑の対象者が次のように列挙されている。

 政治機関で働く職員、略奪者と破壊工作員、活動的な共産党員と政治理念の主導者、虚偽の申し立てにより捕虜収容所から解放されたユダヤ人、NKVD〔内務人民委員部〕の工作員と情報提供者、民族ドイツ人の移送において虚偽の証言や証人の買収といった重要な役割を果たした者、残酷で執念深いユダヤ人、不平分子、反社会的人物、パルチザン、政治部指導員、伝染病と流行病に罹患した恐れのある者、ロシア人暴力団の一味、ゲリラ、ロシア人暴力団への食料提供者、暴徒と扇動者、暴力的な若者、ユダヤ人全般。

 一九四一年七月からは、特別行動隊[アインザッツグルッペン]のみならず(ヒムラーに対し直接義務を負う)さまざまなSSの部隊にソ連の占領地での「保安」業務が割り当てられ、投入される警察大隊(ほとんどは地元の協力者からなる)の数も増大している。彼らは非常に大きく網を広げたため、ナチ支配への脅威とみなされる者はほとんどみな銃殺されたが、それだけではない。ユダヤ人の存在そのものが脅威とみなされ、殺人が正当化された。一九四二年二月にレニングラード近郊で行われた治安活動に関する報告書に明言されているように、「ユダヤ人である」ただそれだけで処刑が正当化されたのである。
 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、156~158)



  • 先般一九日にTD、Kくん、Tの三人と会ったばかりだが、翌日はまた彼らにTTとMUさんも加えた「(……)」のメンバーで集まることになっている。この春から大阪に移って働きはじめるTDに向けたお別れ会のようなものだ。LINEを見ると、一時半に武蔵境駅集合とあったので了承した。
  • バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』を読了し、さらに間髪入れず巽孝之『メタファーはなぜ殺される ――現在批評講義――』を読みはじめた。何だかんだ言ってもやはり、テクストの読み方や文学批評という営みについて興味が向くのだ。巽のこの著作では、いわゆる脱構築批評へと向かっていく批評理論の歴史的進展や、脱構築理論が業界に及ぼした影響力や、さらにその後の動向などについても簡潔明快に整理されていて、わかりやすい解説書になっている。最近は読書がとても面白く、書物や言語に触れる時間を豊富に取れていて好調である。
  • 「記憶」記事を復習する時間も今日はかなり多く確保することができた。五九番から始めて最新の六四番まで通過すると冒頭に戻ったのだが、その後も一項目につき二回ずつの割で精力的に音読を進めて、もう一度最後の引用まで至ったくらいだ。実に勤勉である。そのあとにはEvernoteに保存されてある過去の読書からの書抜きを読み返して、新たに八六番まで引用項目を作成した。
  • この調子で書物や文章をがしがしと、猛々しいまでに読み貪っていくとともに、自分の内に取りこみたい事は片端から「記憶」記事に追加して、復習もなるべく毎日、アグレッシヴにどんどんと進めて、先人の知見や複雑な理論的洞察や優れた思考形式などを消化・血肉化していきたい。
  • 夕食の支度として小松菜を茹でて切ったり、鯖を焼いたりする。
  • 夕刊の一面によれば、英国ではレストランやパブなど飲食店の営業を停止することになったと言う。持ち帰り客のためならば店を開けても良いようだが、飲食店のみならず、ほかには劇場や映画館にも閉鎖を求めるとのことだ。営業停止期間中に企業が労働者を解雇するのを防ぐために、政府がその間の賃金支出を負担し、最大三二万円までの範囲で給与の八割に当たる額を支払う方針でいるらしい。気前の良い政策ではないか?
  • 久しぶりに音楽の鑑賞に集中する時間を取った。まず最初に、Miles Davis Quintet, "Dear Old Stockholm"(『'Round About Midnight』: #6)。録音は一九五六年六月五日である。ベースソロ部分になるとやや引っこんでいるようで聞き取りづらいものの、刻みにおいてはPaul Chambersが生み出すフォービートの緊密に締まった弾み方がさすがである。John Coltraneは、まあこの時期の平均的な演奏かな、という印象だ。一九五六年なのでまだまだおずおずと控え目で貫禄はなく、後年の堂々としたスタイルはまったく未完成であり、未成熟の朴訥な青さが窺われる。
  • 今日は"Dear Old Stockholm"の音源をいくつか聞き比べてみることにして、次に同じくMiles Davisの、『Vol.1』での演奏を選んだ。録音年月は一九五二年五月九日。『'Round About Midnight』のおおよそ四年前に当たるわけだが、上の録音よりも曲全体として落着いており、ややもったりと感じられるようなペースが敷かれている。Milesは五六年の演奏ではミュートだったけれどこちらはオープンで吹いていて、着実で安定的な歌いぶりは充分にメロディアスだが、上記の方が音数少なく細心な様子で、より切り詰めた旋律の流れを構築しようという意識が見られたような気がする。彼独特のものとして語られることのある例の繊細な美学――そのプレイスタイルについては、「卵の殻の上を歩くようだ」などという比喩が口にされたらしい――が、あるいはこの四年間で形成されたのか。
  • 最後に、The Roy Haynes Trio featuring Danilo Perez & John Patitucciの"Dear Old Stockholm"(『The Roy Haynes Trio featuring Danilo Perez & John Patitucci』: #4)。録音は一九九九年一一月二三日か二四日のどちらかである。Roy Haynesは一九二五年生まれなので、この時点で既に七四歳なのだが、紛うことなき老体のくせに実に元気なプレイをするものだ。結構手数が細かくばたばたとしたような叩きぶりで、わりと突っこんできて目立つ場面があり、旺盛である。ドラムソロを聞いてみるとキックの差し挟み方など、サウンドの質感は全然違うけれど、不思議と何となくPaul Motianを連想させるようだった。驚くべきことに、まだ存命のようだ。九五歳になるからさすがにもう演奏はしないのだろう。


・作文
 27:10 - 27:24 = 14分(21日)
 27:24 - 28:05 = 41分(7日)
 計: 55分

・読書
 13:44 - 14:13 = 29分(ジョンソン)
 14:19 - 16:01 = 1時間42分(巽)
 16:10 - 17:20 = 1時間10分(「記憶」)
 18:58 - 19:45 = 47分(「記憶」)
 20:21 - 21:11 = 50分(バルト; 書抜き)
 22:39 - 23:41 = 1時間2分(「記憶」)
 24:31 - 25:19 = 48分(巽)
 28:05 - 28:57 = 52分(巽)
 計: 7時間40分

  • バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』: 253 - 271(読了)
  • 巽孝之『メタファーはなぜ殺される ――現在批評講義――』: 12 - 124
  • 「記憶」 59 - 64, 1 - 67
  • ロラン・バルト石川美子訳『零度のエクリチュールみすず書房、二〇〇八年、書抜き

・睡眠
 4:45 - 12:45 = 8時間

・音楽