2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/6/30, Sun.

まずは歌からはじめよう。なんらかの感受性をもって歌を読んだことのある人であれば、すでに言葉に固有の力を知っている。歌の言葉が表現するのは、歌人、読者、主題が相互に応答しあう領域における調和である。歌を書いたことのある人であれば、もしくは学…

2019/6/29, Sat.

小林 ヨーロッパの哲学は全部、命題ベースで、命題は述語が関係を記述しているのですが、複合語は関係を明示することなく、名と名を直接、結びつけてしまう。そこには、述語関係を捨てちゃった超論理みたいなものがある。そのように「即にして密なる」関係、…

2019/6/28, Fri.

漢字と仮名の二重性は、日本文化にとっては本質的な問題です。たとえばそれは、『古今集』の「序」が、 やまと歌は 人の心を種として よろづの言の葉とぞなれりける とはじまる「仮名序」(紀貫之)と、 夫和歌者、託其根於心地、発其華於詞林者也 それ、和…

2019/6/27, Thu.

では、人はどのように存在しているのか。これは仏教の伝統的な考え方からすれば、「身口意」ということになる。「からだ・ことば・こころ」と言っておきましょうか。この3つの次元における「業」(カルマですね)が、地上的人間存在の核であるということにな…

2019/6/26, Wed.

小林 それはまさにそのとおりなので、「感覚的」と言ったときに、一番大きな誤解は、われわれが常に、もちろんいろんなものを知覚し、感覚しているんだけれども、その感覚が、多くの場合は習慣によって統御されているわけです、かならずね。感覚はすでにつく…

2019/6/25, Tue.

小林 「うつす」ということをさっき言いましたよね。もし日本文化のキーワードの動詞をもうひとつ挙げるとすると、それは、――わたしの先生でもあった建築家の横山正さんから学んだことですが――「よる」かなあ。「寄る」であり「依る」であり。インティマシー…

2019/6/24, Mon.

中島 いまおっしゃったように、インティマシーの原型は母子密着の状態だろうと、わたしも思います。ところが、カスリスさんに言わせると、インティマシーの定義は、「親友に自分の内奥のものを伝えることなんだ」と言うわけです。 小林 すばらしい! 中島 こ…

2019/6/23, Sun.

中島 (……)おそらく日本語も、空海の時代の日本語に比べると相当変わってきている。それにもかかわらず、いまおっしゃったような構造的な問題が残っているわけです。よく日本は関係性を中心とする考え方をしがちなところだと言いますが、わたしはその考えは…

2019/6/22, Sat.

小林 ここに中島さんとわたしに共通する、そして他の人たちと少し違うところがあると思うのですが、それは、われわれは空海を密教の思想家として見るよりは、「声」と「文字」と、そして「実相」という、この3つの根本的問題に手をつけてしまった人、そして…

2019/6/21, Fri.

だが、まさに言うは易しです。自分がそのなかに浸かっている文化は一般的な論理の水準で他者に語ることができるようには認識されていません。生きた文化は、前意識、無意識の次元に浸透して組織されているからで、その人には「あたりまえ」のことであっても…

2019/6/20, Thu.

妻はぐっすり眠っている。 ゲイブリエルは片肘をつき、妻のもつれた髪と開き加減の口を憤りもなくしばし見つめ、深い寝息を聞いていた。そうか、そんなロマンスの過去があったのだ。一人の男がこの女のために死んだ。夫たる自分がこの女の人生でなんとも哀れ…

2019/6/19, Wed.

一羽の太った焦茶の鵞鳥がテーブルの端で横になり、もう一方の端には、パセリを茎ごとちらした皺紙[しぼがみ]の上に豚腿がどでんと置かれ、これは皮をむいてパンくずをふりかけ、脛には上手に仕上げた紙の襞飾りが巻きつけてあり、その脇には薬味の載った牛…

2019/6/18, Tue.

ダフィー氏は肉体や精神の不調を予知させるものをことごとく忌み嫌った。中世の医者ならば土星気質と診断したであろう。顔は、これまで過した年月をくまなく物語り、ダブリンの街路の焦茶色を呈している。長い大きめの頭はかさかさした黒い髪、黄褐色の口髭…

2019/6/17, Mon.

パイプをぷかぷかやり始め、どうやら思うところを頭の中でまとめているらしい。くだくだしい老いぼれのくせに! (……) (ジェイムズ・ジョイス/柳瀬尚紀訳『ダブリナーズ』新潮文庫、二〇〇九年、12; 「姉妹」) * コッター爺さんはしばし僕を見つめた。…

2019/6/16, Sun.

子どものときにひとりで、「数字を使わずに『数』をイメージできるか」という遊びをしていた。「1」とか「2」とか、「一」とか「二」という記号、あるいは「イチ」とか「ニ」という音を一切頭のなかから締め出して、そういう記号や音を使わずに、「1」や「2…

2019/6/15, Sat.

ラベルを貼られるということがどういうことか理解するときに、ひとつの例があって、それは、「なにかを表現しようとしたときに、そのラベルが強調される」ということがある。 たとえば、女性弁護士や女流作家のように、なにかの肩書きに伴って「女性」「女流…

2019/6/14, Fri.

多数者とは何か、一般市民とは何かということを考えていて、いつも思うのは、それが「大きな構造のなかで、その存在を指し示せない/指し示されないようになっている」ということである。 マイノリティは、「在日コリアン」「沖縄人」「障害者」「ゲイ」であ…

2019/6/13, Thu.

肉体労働をやってみて思ったのは、これは体というよりも感覚を、あるいは時間を売る仕事だな、ということだった。決められた時間に現場に入り、単純な重労働を我慢してやっていれば、そのうち五時になって一日の仕事は終わる。その間、八時間なら八時間のあ…

2019/6/12, Wed.

たとえば、女性は若くきれいにかわいくしているべきである、という、ありきたりな規範がある。それは私たちを縛り付ける鎖であり、たくさんの人びとを排除する暴力である。しかし、たとえば女性が身ぎれいにすること自体を、暴力に等しいものとして否定する…

2019/6/11, Tue.

便所に行ってきたのち、三時手前から日記。窓をひらいていたので肌着にハーフ・パンツの格好では結構肌寒く、収納からグレン・チェックのブルゾンを取り出して羽織った。そうして一時間ほど音楽もなく、窓外から響いてくるホトトギスの鳴き声を共連れとして…

2019/6/10, Mon.

十年ほど前に那覇で乗ったタクシーの運転手のおっちゃんは、私は奄美の人間で、沖縄は合いません、と話していた。本土の人間からすると、どっちも似たようなものだと思いがちなのだが、実は奄美と沖縄とはかなり複雑な関係にある。 そのおっちゃんは、戦時中…

2019/6/9, Sun.

だが、世界中で何事でもないような何事かが常に起きていて、そしてそれはすべて私たちの目の前にあり、いつでも触れることができる、ということそのものが、私の心をつかんで離さない。断片的な語りの一つひとつを読むことは苦痛ですらあるが、その「厖大さ…

2019/6/8, Sat.

この世界には、おそらく無数のダーガーがいて、そして、ダーガーと違って見出されることなく失われてしまった、同じように感情を揺さぶる作品が無数にあっただろう。もうひとりのダーガーが、いま私が住んでいるこの街にいるかもしれない。あなたの隣にいる…

2019/6/7, Fri.

二人の会話のかけがえのなさは、二人が死んだ世界では、私たちも二人も知っている。二人が普通に帰ってきた世界では、そのかけがえのなさを、私たちは知っているが二人は知らない。そして、この二人の存在が与えられていない世界では、そのかけがえのなさは…

2019/6/6, Thu.

さきにも書いたが、小学校に入る前ぐらいのときに奇妙な癖があって、道ばたに落ちている小石を適当に拾い上げ、そのたまたま拾われた石をいつまでもじっと眺めていた。私を惹きつけたのは、無数にある小石のひとつでしかないものが、「この小石」になる不思…

2019/6/5, Wed.

もう十年以上前にもなるだろうか、ある夜遅く、テレビのニュース番組に、天野祐吉が出ていた。キャスターは筑紫哲也だったように思う。イランだかイラクだかの話をしていて、筑紫が「そこでけが人が」と言ったとき、天野が小声で「毛蟹?」と言った。筑紫は…

2019/6/4, Tue.

明け方から何度も目覚めたのに、起床に至らず、結局気づけば一一時まで眠っていた。不甲斐ない。眠りが浅くて何度も覚めてしまうが故にかえって長く床に留まってしまうのだろうか。上階に行き、着物リメイクの仕事に行った母親が残した書抜きを読み、便所に…

2019/6/3, Mon.

早い時間から何度か覚めていた。六時五〇分のアラームが鳴らないように設定し直した覚えがあるので、少なくとも六時台には既に覚めていたはずだ。しかし結局は一〇時四〇分まで惰眠を貪った。身体を起こして上階に行くと、母親が今日はバイト、と訊いてくる…

2019/6/2, Sun.

携帯電話が所定の場所から手近の机上に移っていたところから見ると、六時五〇分のアラームで一度起き上がったはずだが、その時の記憶はまったくない。気づくとそれから一時間が経って、七時五〇分だった。起き上がって上階へ行き、母親に挨拶をして洗面所に…

2019/6/1, Sat.

九時半のアラームで一度ベッドから離れたのだったが、今日も今日とてまもなく寝床に戻ってしまった。ベッドの端に落ちている陽のなかに入り、光を吸い込むようにしながら一時間ほど微睡みに苦しんだあと、一一時を前にしてようやくふたたび起き上がることが…