2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/1/31, Fri.

強制収容所は、元来ナチスの政権獲得の直後に、政治的敵対者に対する保護拘禁の施設として作られたものである。一九三三年二月二七日、国会議事堂の放火が行なわれ、その翌日、「民族と国家を防衛するための緊急令」、いわゆる国会放火令が公布された。この…

2020/1/30, Thu.

撤去行動は、最初、もっぱらユダヤ人警官によって実行された。二〇〇〇人の警官がこのために動員された。SSは背後に退いて、ユダヤ人自身に毎日の「移住」候補者のリストを作成させ、それを実行させた。[ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人評議会議長]チェルニ…

2020/1/29, Wed.

最初の試練はユダヤ人評議会によるリストの作成・提出である。リストはウーチのように撤去要員のみを記載したリストをユダヤ人評議会が作成・提出する場合と、年令、職業、労働可能性などを記載した全員のリストをユダヤ人評議会が作成・提出して、ドイツ側…

2020/1/28, Tue.

[ウーチ・ゲットー・ユダヤ人評議会議長]ルムコフスキーは[一九四二年]九月四日に次のように述べた。 「昨日の午後、彼らは私に二万人以上のユダヤ人をゲットーから引き渡すように命令を下した。もし、そうしなければ、――『我々がそれをするであろう』という…

2020/1/27, Mon.

一九四二年五月一日のヴァルテラント地方長官グライザーのヒムラー宛書簡によると、この撤去作戦によって、人口一六万のこの[ウーチ・]ゲットーから一〇万人のユダヤ人を撤去する予定だったようである。一九四二年六月二日のゲシュタポの報告(後述)からも…

2020/1/26, Sun.

[ラインハルト作戦の総指揮官]グロボツニクは、のちにヒムラーに宛てた報告書で、「ラインハルト作戦」の任務として、「(A)(ユダヤ人の)移住そのもの、(B)(ユダヤ人の)労働力の活用、(C)物材の活用、(D)隠匿された有価物及び不動産の収用」をあ…

2020/1/25, Sat.

ヒムラーは一九四四年八月、アイヒマンにユダヤ人絶滅政策の成果に関する報告を求め、絶滅収容所によるもの四〇〇万人、SS特務部隊によるもの二〇〇万人、計六〇〇万人との報告を受けていた。ヒムラーはこの報告に不満で、もっと多いはずだとして、独自に統…

2020/1/24, Fri.

ヒムラーが、軍需産業に本格的に乗り出す気になるきっかけとなったのは、一九四二年一月、フォルクスヴァーゲン社が労働力不足から軽金属鋳造工場の建設に収容所囚人を使用することをヒトラーに願い出て許可されたことにあったようである。この代償としては…

2020/1/23, Thu.

(……)我々はすでに、一九四一年夏のゲットーの破滅的な食料事情とドイツ本国における食料問題の逼迫が絶滅政策の重大な原因となったことを知っている。その事情は、絶滅政策の実行にあたってふたたび大きく現われて、絶滅政策の必要性をいわば再確認させた…

2020/1/22, Wed.

アウシュヴィッツ収容所長ヘスは、戦後の裁判における一九四六年四月の最初の証言では、一九四一年六月に絶滅収容所建設の命令を受けたと述べたが、その時同時に述べた陳述内容はまったく混乱したものであった。彼は二度目以後は、一九四一年夏ヒムラーから…

2020/1/21, Tue.

実際、絶滅収容所とガス室建設の権威となったブラックをはじめとして、ベウゼツ、ソビブル、トレブリンカのガス室建設に携わり、ベウゼツ絶滅収容所長になったあと、ベウゼツ、ソビブル、トレブリンカの三絶滅収容所の監察官となったブラックの技術面の片腕…

2020/1/20, Mon.

安楽死計画の直接のきっかけとなったのは一九三九年初め、あるライプチヒの若い父親が盲目、白痴、重度の奇形をもって生まれた自分の子に安楽死を願いでたことであった。ヒトラーはもちろんこれに許可をあたえたが、このことがきっかけになって、ヒトラーは…

2020/1/19, Sun.

一九四一年七月一六日、ヴァルテガウの保安諜報部指導者であるSS少佐ヘップナーは国家公安本部ユダヤ人課長アイヒマンにつぎのような書簡をおくっている。すなわち、ヴァルテラント地方長官グライザーの役所ではユダヤ人問題の解決についてさまざまの話し合…

2020/1/18, Sat.

しかしながら、真の問題はまさに、ゲットーが自立化の道を歩み初めてから生じた。真の問題は、食料の対価としての価値の生産ではなくて、使用価値としての食料そのものの供給の限界にあったのである。前節で見たドイツの食料政策からも想像されるように、ゲ…

2020/1/17, Fri.

ゲットーは一九四〇年末に一つの限界に達した。ゲットーは元来最終的な解決にいたるまでの過渡的なものと考えられたから、長期的な構想を全く持っていなかった。ユダヤ人はゲットーに収容される過程で数度にわたる没収によって、財産をほとんど奪われ、生産…

2020/1/16, Thu.

ドイツ側は、はじめのうちは自らの必要に応じて、ユダヤ人を街頭で拉致してこれを強制労働に使用したが、やがて、ユダヤ人評議会が間に入り、ドイツ側に必要な労働力を調達することになった。こうして、ユダヤ人評議会は調達リストの作成を通じて、ゲットー…

2020/1/15, Wed.

(……)[一九四〇年]七月になるとポーランド総督フランクはヒトラーのマダガスカル計画を明らかにして、すべてのゲットー建設を中止せしめた。七月一六日、ワルシャワ・ユダヤ人評議会議長チェルニアコフは日記に、ゲットーはもはや建設されることはないであ…

2020/1/14, Tue.

(……)独ソ戦の遂行にあたってドイツ側がとろうとしたのは、軍の食料の完全な現地調達主義であり、さらにそのうえ、ドイツ本国への重要食料品の調達・輸送であった。この点にかんして、一九四一年四月二九日の最高軍司令部国防経済・軍備局長トーマスの覚書…

2020/1/13, Mon.

すなわち、ハイドリヒと特務大隊長は[一九四一年]六月一七日の協議において、「新たに占領する地域における反共的反ユダヤ的勢力の自浄の努力はこれを妨害せず、逆に、これをひそかに助長し、強化し、必要ならば、正しい方向に操縦する」ことを決定していた…

2020/1/12, Sun.

ところで、[いつ「絶滅命令」が伝えられたか、という点に関して]七月末から八月末という結論を出すにあたってシュトライムが注目するのは「第三特務中隊の領域で一九四一年一二月一日までにおこなわれた死刑執行の一覧」と題する第三特務中隊長イェーガーの…

2020/1/11, Sat.

最高軍司令部は、一九四一年六月六日に、「政治委員処理に関する指針」いわゆる「政治委員射殺命令」を各部隊に発した。そこには次のように述べられている。 「ボリシェヴィズムとの戦いにおいては、敵が人間性と国際法の原則に基づいた態度をとるものとは考…

2020/1/10, Fri.

ヒトラーの政治委員射殺命令の構想が最初にしめされたのは、一九四一年三月三日、国防軍首脳との会談においてであった。すなわちヒトラーは会談に提出された「指令二一号(バルバロッサ作戦)特殊領域における基本方針案」を、次のような考えの基本線にした…

2020/1/9, Thu.

ルブリン居留地計画の挫折のあとクローズアップされてくるのがマダガスカル計画である。当時フランスの植民地だったマダガスカル島にユダヤ人を移住させるという計画は、すでに一九三七年にポーランド政府によって検討されており、一九三八年一二月にはフラ…

2020/1/8, Wed.

以上の反ユダヤ立法をみると、ヒトラーは――初期の思想になかった「経済のアーリア化」は一応別として――基本的に初期の思想にかなり忠実に行動していることがわかる。ただ注目すべきは、ヒトラーはこれらの行動にあたってあくまでも「下からの反ユダヤ主義」…

2020/1/7, Tue.

ナチスの代表的な反ユダヤ立法とされるニュルンベルク法の形成過程においてもヒトラーのイニシアチブがみられる。さきにもみたように、一九三五年夏には反ユダヤ主義大衆行動の大波が打ち寄せていたのであるが、しかし、この年の九月のニュルンベルク党大会…

2020/1/6, Mon.

運動は一九三五年四月から五月にかけて、まず伝統的に反ユダヤ主義の強い西部ドイツと南部ドイツにおいて勃発した。六月六日付のゲシュタポの情勢報告は、党の広範な層は「いまやユダヤ人問題を徹底的に解決するときが来た」と考えていると報じた。彼らは、…

2020/1/5, Sun.

ところで、このような大衆行動は決してヒトラーの望んだことではなかった。彼はすでに[一九三三年]三月一〇日にSA隊員とSS隊員にアピールを出し、行動は「上から指導された計画的なものでなければならない」と述べ、「個人に対する暴力行為、自動車の妨害、…

2020/1/4, Sat.

一九三三年一月、ヒトラーが政権を獲得したのちの反ユダヤ主義の行動は、「下からの反ユダヤ主義」と「上からの反ユダヤ主義」という二つの形態がみられることになるが、しかし、興味あるのは、「下からの反ユダヤ主義」たる大衆行動がつねに時間的に先行し…

2020/1/3, Fri.

いうまでもないことであるが、反ユダヤ主義そのものはヒトラーの発明でもなんでもない。それは中世以来のヨーロッパ文明の暗部に属するものである。ところで、元来宗教的性格のものであった反ユダヤ主義は、フランス革命以来のユダヤ人解放と世俗化の波に対…

2020/1/2, Thu.

一九二一年三月一三日のナチ党機関紙『フェルキシャー・ベオバハター』の社説で、ヒトラーは、「必要とあれば、その扇動者を強制収容所に保護することによって、ユダヤ人が我が民族を破壊するのを防ごう」と述べた。 (栗原優『ナチズムとユダヤ人絶滅政策 ―…