2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/2/29, Sat.

(……)一九三〇年代初頭、政治はしだいにナチの思惑どおり、暴力的に進められることになる。 それでもナチは、あまり事を急ぎすぎないよう注意しなければならなかった。成果は一九三二年七月三一日の国会選挙で明確に示される。このときNSDAPは自由選挙で最…

2020/2/28, Fri.

党はドイツ人社会の階級区分を打破し、ユダヤ人を排除した民族共同体[フォルクスゲマインシャフト]を作り上げ、ヴァイマル体制を打倒することを目指し続けていた。相変わらず軍事的で反民主的で人種主義的な政綱を掲げ、第一次世界大戦におけるドイツの敗北…

2020/2/27, Thu.

ナチにとって「マルクス主義者のインターナショナリズム」は、ドイツの労働者を国家的・人種的共同体から引き離し民族[フォルク]の結束を弱める脅威であるとともに、一九一八年にドイツの奮闘を妨害したものでもある。ゆえに粉砕しなければならなかった。ユ…

2020/2/26, Wed.

のちに国民社会主義ドイツ労働者党(ナチ党〔NSDAP〕)となるドイツ労働者党は、第一次世界大戦直後に誕生している。敗北と革命に続く混沌のなかで生まれた多くの小規模な右翼政治団体のひとつで、一九一九年一月五日、ミュンヘンで結成された。(……) (リ…

2020/2/25, Tue.

一九一九年七月にドイツが不本意ながら調印したヴェルサイユ条約は、たいへんな衝撃をもたらした。停戦時、ドイツ人の多くは、アメリカ大統領ウッドロー・ウィルソンが一九一八年秋に明言していた気高い講和原則から生まれる平和を無邪気に期待していたため…

2020/2/24, Mon.

一九二三年一一月に企てたミュンヘン一揆が失敗に終わり、有罪判決を受けたアドルフ・ヒトラーは、獄中で執筆した『わが闘争』のなかで、第一次世界大戦終結時の自らの様子を次のように記している。 [一九一八年]一〇月一三日から一四日にかけての夜間、イギ…

2020/2/23, Sun.

要するに、ナチズムの起源はドイツ固有の社会的・経済的構造にはじめから存在したわけではなく、第一次世界大戦とその敗北という大きな混乱の結果生まれたものだと考えられる。しかしながら、ナチズムは現代ヨーロッパ史における長期的な課題、すなわち人種…

2020/2/22, Sat.

政治的イデオロギーとしてのナチズムは、戦争と闘争を中心に展開した。つまり、戦いは国家の主要目的であると同時に「民族」の健全さの尺度でもあったわけだ。ナチズムのイデオロギーは戦争のイデオロギーであり、平和は戦争の準備期間にすぎず、敵とみなし…

2020/2/21, Fri.

…… ようするに、生きがいなんておれはいらないなー、なんておもえてくるわけですよ。生きがいでだれかを虐げているばあいじゃないのです! なんだかとうとつな結論ですけど、なんかこないだ、うっかり川におちて、いや、そんなたいしたことにならなかったん…

2020/2/20, Thu.

夢が人間の一部であるように、人間も夢の一部であり、ふつうに見ている風景が夢の解釈みたいににおいたつ、そんな時間が過ぎて、すべてがおわっていた。 (町屋良平『愛が嫌い』文藝春秋、二〇一九年、252; 「生きるからだ」) 一〇時のアラームで一度ベッド…

2020/2/19, Wed.

久伊豆神社に参拝し、錦鯉や巨大亀のひそむ庭園をながめる、木洩れ日が水面をまだらにすると、パチパチと土が弾けてい、湿った土が乾いてゆく。高校生のときは人並みの登下校や青春にかまけていて、まともに池を眺めたことなんてなかった。だから小学校の周…

2020/2/18, Tue.

(……)かれは、感覚をうしなう前の自分を演じているような気分に、ときどきなる。前の自分のほうがずっと、他人にたいして抑圧的にふるまっていたし、排他的だとわかっていたから、それすらすこし演じてしまうのだった。悪意を演じてしまうのだった。でもそ…

2020/2/17, Mon.

(……)すぐ風邪をひく。風邪をひいても夜に家を追いだされるから、クラスメイトがいうように学校を休みたいがために風邪をひきたいとはおもわない。そんな些細な違いにこそ、巨[おお]きな孤独をいつきくんはかんじる。持たざる不幸は持つ不幸によく似ていて…

2020/2/16, Sun.

おくすり手帳が自分を代弁してくれるので、たすかっている、かれは「じぶんのことば」がこわい。壊れている。からだもことばも壊れていて、自己同一性を偽ってくる。椚くんのまえにいると、ただ大人がそこにいる状況そのものを求められているとおもうのでか…

2020/2/15, Sat.

「清水の舞台からとびおりるかのごとき」気分でかれは心療内科の門を二週間ごとにたたく。棟方くんは夕方のひかりを浴びてこわい。紋切り型のことばで自分を描写することでなんとか情緒を奮い起たせているふしがある。エレベーターの五階をおしてうすぐらい…

2020/2/14, Fri.

橋のしたも湿っていて、土も粘りけこそないがいつもよりやわらかい。川と雨が一体になったようで、水が空に戻っていくみたいだった。(……) (町屋良平『愛が嫌い』文藝春秋、二〇一九年、36; 「しずけさ」) 九時のアラームで起床することに成功した。空は…

2020/2/13, Thu.

(……)この世のシステムは、なにかを強制する者よりそれに消極的同調をしめす者で成り立つのだ。(……) (町屋良平『愛が嫌い』文藝春秋、二〇一九年、31; 「しずけさ」) 正午ちょうどまで持続する真空的な睡眠空間のなかに留まった。それよりも以前、九時…

2020/2/12, Wed.

(……)ことばどころか記憶をつくる胆力すら失い、かれを語ることばもなにもなくなってしまった。ゆううつはゆううつを脱けるという価値基準をもてない。ゆううつを脱けたところで、そこにある世界想定もゆううつを離れたものではありえず、いきたい世界なん…

2020/2/11, Tue.

ひとの顔はこわい。こんなちいさくても器官が密集している。感じる器官が、表現する器官がとてもこわい。体温だけでいてほしいものだ。 (町屋良平『愛が嫌い』文藝春秋、二〇一九年、21; 「しずけさ」) 一一時台後半まで睡眠あるいは夢現の状態に留まった…

2020/2/10, Mon.

(……)昼間はくもりだったらしく木々は濃く影をつくっていて、池の表面も闇より濃く靄がかっているようにみえる。うごめく鯉も水面下を黒く灯すようにしかみえず、池におちてただよう葉もボンヤリと湖面が浮いているふうにしかみえない。おなじ夜闇でもこう…

2020/2/9, Sun.

(……)ようするにしぜんに回復するとわかっているゆううつだった。しかしゆううつのさなかにはゆううつ以外ない。三十秒先のことを考える気力すらないのだ。なにもおもしろくはないし、なにもうれしくもない。不安すら好調時のいち症状でしかなかった。ただ…

2020/2/8, Sat.

真夜なかでは何年も前のことが昨日だ。それは明日のことである感覚とすごく似ている。夜のしたでは記憶と日常がそこらじゅうに散らばっていて、塊になって一挙に襲いかかられるような、特異な時間感覚がある。(……) (町屋良平『愛が嫌い』文藝春秋、二〇一…

2020/2/7, Fri.

おまけに間断もなく鉛のような酔に閉されている私の眼に、華麗な花の合間からちらちらと映るうつつであるが故に、無何有[むかう]の風情が突っぴょう子もなく、嫋娜[たおや]かに感ぜられるのであろうが、藤の花のようにすらりと丈の伸びたテルヨが、いつもう…

2020/2/6, Thu.

それから私たちは食事の度ごとにそれとなく四方山のことなどをはなすようになったが、顔つきや口つきを全く動かすことなしに言葉を吐くということは妙なもので、「言葉」というものが全然発声者とは関わりなく、それぞれ游離して、明らかに空間における別個…

2020/2/5, Wed.

遠い昔に彼女は海岸で、白い小石を拾った。砂を払い、ズボンのポケットに入れて家に持ち帰り、引き出しに入れておいた。波に洗われ角がとれ、丸くすべすべになった石。中が透けて見えるほど白いと思ったけれど、透明ではなかった(じつは平凡な白い石だった…

2020/2/4, Tue.

いかなる自己憐憫もまじえずに、まるで他者の人生に好奇心を抱くような気持ちで、彼女がときおり気にしていること。小さいときから彼女が飲んできた錠剤を集めたら、全部で何個になるのだろう? 病気だった時間を全部合わせたらどれほどになるのだろう? ま…

2020/2/3, Mon.

ヒトラーの反ユダヤ主義思想はまさにこのポグロムに対する反ユダヤ主義の側からの批判として成立したのである。ユダヤ人絶滅政策をヒトラーの意図から説明しようとする意図主義的解釈は、ヒトラーの非合理的な反ユダヤ主義的心情を強調してきた。しかし、従…

2020/2/2, Sun.

(……)本書が示そうとしたことは、何よりも、ナチズムのユダヤ人絶滅政策というものは存在したということ、しかし、それは従来考えられてきたようなヒトラーが元来抱いていた計画の実現というようなものではなくて、第二次世界大戦、とくに、独ソ戦の過程で…

2020/2/1, Sat.

問題は(1)[アウシュヴィッツ強制収容所の「第一クレマ」と第二~五クレマの残骸から採集した標本がほとんど青酸反応を示さなかったこと]である。[フランスの修正主義者フォリソンの調査依頼を受けたアメリカ人処刑設備製造業者]ロイヒターは、「第一クレマ…