2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧
変化を希求せよ。おお 焔の働きに感動せよ。 焔の中でこそ、一つの物がきみから離れ、変容の華々しさを示す。 地上のものを支配するあの構想の精神は 図形の躍動するなかで転換する点のみを好む。 留まろうと身を閉ざすものは、それだけでもう硬直した存在だ…
アネモネの牧場の朝を少しずつ 開いていく花の筋肉。 やがては花の胎内に、音高く鳴る空の 多声の光が注がれる。 静かな星形の花の中で、 限りない受容のために張りつめている筋肉、 それはときおりあまりの充溢に圧倒され、 日暮れが知らせる安息への合図を…
称賛すること、それだ、称賛を使命とする人 オルフォイスは現われた。まさに岩の沈黙のなかから 青銅が現われるように。彼の心、おお それは 人間にとって尽きることない葡萄酒のためのはかない絞り機だ。 埃にまみれてもオルフォイスの声は嗄れることはない…
おお きみたち愛情こまやかなひとよ、ときには きみたちのことなど思ってもいない呼気のなかへ歩み行け。 その呼気をきみたちの頬のところでふたつに分けるがよい。 それはきみたちの背後に出て、ふるえつつ再びひとつになる。 おお きみたち至福の人、まっ…
そしてそれはほとんど少女であった。 歌と竪琴がうまくひとつになって姿をあらわし、 春のヴェールを通して明るく輝き、 わたしの耳のなかに寝床をつくった。(end116) そしてわたしのなかで眠った。すべてが少女の眠りだった。 わたしがかつて称賛した木々…
樹木が立ちのぼった。おお、純粋空間へのぼる。 おお オルフォイスがうたう。おお 耳のなかに立つ高い樹木よ。 そしてすべてが口をつぐんだ。だがその沈黙のなかにさえ 新しい始まりと、合図と、変化が起こっていた。 静寂から生まれた獣たちが、ねぐらや巣…
大地よ、おまえの望みはこれではないのか。 目に見えないものとなってわれわれの内部に蘇生すること、これがおまえの夢ではないか、 いつか目に見えないものとなるのが。――大地よ、目に見えないこと! もし変容でなければ、何がおまえの切なる頼みであろうか…
この現世こそ、言葉になる物たちの時であり、地上がその故郷だ。 語れ、そして打ち明けよ。かつてないほど 物たちはうつろいゆく、体験しうる物たちは。なぜなら、 それらの物をおしのけて替ろうとするのは、形のない行為だ。 殻におおわれた行為だ。その殻…
そこでわれわれはひしめき合い、地上の生を成しとげようとする、 われわれの素朴な手の中に、あふれる眼差しの中に、 そして言葉なき心の中に、それを保っておこうとする。 われわれは地上の生になりきろうとする。さてだれにそれを渡すのか。 最も望ましい…
なぜ、現世のときを過ごすことになるなら、 月桂樹となって、ほかのすべての緑よりも少し暗く、 どの葉のへりにもささやかな波を(風の微笑のように) 立てて過ごすこともできるのに――なぜ 人間として一生を送らねばならぬのか――そして 運命を避けながら運命…
結局彼らはもうわれわれを頼りにしない、若くして世を去った者たちは。 死者は、子供が母親の乳房からおだやかに離れて成長していくように、 地上の習慣から少しずつ離れていくのだ。けれども われわれ、悲しみからしばしば聖なる進歩が生まれ出るという 大…
もとより、この地上の住人ではなくなるというのは奇妙なことだ。 やっと習得したばかりの習慣をもう使わず、 ばらや、その他ことさらに未来を約束する物たちに 人間としての未来の意味を与えることをせず、 限りなく心細げな両手に支えられている存在では も…
声がする、声が。聞け、わが心よ、かつては 聖者たちだけがした聞き方で。むかし巨大な叫びが 耳傾ける聖者たちを地面から持ち上げた。ところが彼らは、 おどろいたことに、ひざまずいたままそのことに気づかなかった。 それほどに彼らは一心不乱に聞いてい…
そうだ、年々の春がきみを必要としているのだろう。 いくつかの星は、自分を感じてくれるようにと、きみに求めてきた。(end103) 過ぎ去った時間から大波が高く打ち寄せたり、 あるいはきみが開かれた窓辺を通り過ぎるとき、 ヴァイオリンの音が身をゆだね…
だれが、わたしが叫んでも、天使の序列から わたしの声を聞いてくれようか。もしも 天使のひとりがわたしを胸に突然抱くとしたら、 その強烈な存在のため、わたしは滅びてしまう。なぜなら美は われわれが辛うじて堪えうる恐しいものの発端にすぎないから。 …
この内部にふさわしい外部は どこにあるのか。どんな痛みの上に この亜麻布は当てられるのか。 どんな空が、このなかに この開いたばらの(end100) この屈託のない花々の 内海のなかに映っているのか。ごらん、 ばらはみなほどけかかり、ほどけた 空間にや…
昼の終わりに近い時間、 この土地はどんなことにも備えができている。 わが魂よ、おまえの憧れているのは何か、言うがよい…… 荒野になれ、そして荒野よ、広くなれ。 平らな、とっくに消え去った国のうえに 月が出たら、(end63) 大きくなって、それとわから…
あなたは来ては去る。扉の締まるときは 並はずれてやわらかで、風もほとんど立たない。 ひっそりした家々の道を通りぬけて行くすべての 者たちのなかで、あなたは一番静かです。 人はみんな、あなたの到来にすっかり馴れて、 読みふける本にあなたの青い影が…
わたしが生まれた根源であるあなた、暗闇よ、 わたしは焔よりもあなたを好む。 焔はある限られた区域に光を注ぐことにより 世界を区切り、 その外側にいる者はだれも焔を感知しない。 けれども暗闇はすべてのものを受け容れる。 さまざまな姿や焔や、動物た…
死はおおきい。 われわれは死のものだ、 口で笑ってはいても。 生のただなかにいると思っているとき、 死はわれわれのただなかで 泣いているのだ。 (神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、48; 「結びの曲」 …
きみがだれであるにしろ、夕暮れにはそとへ出たまえ なにもかも知りつくしている自分の部屋をあとにして、 きみの家の前には、遠い景色がひらけている、 きみがだれであるにしろ。 すりへった敷居からそとへ向くことのほとんどない疲れた目をあげて、 きみは…
ひたすら耳をかたむけ、目をみはりつつ 息をひそめよ、ぼくの深い深い生命よ、 風がそっとおまえに伝えようとすることを 白樺のふるえるよりなお早く、それと知るように。(end12) ひとたび沈黙が語りかけてきたら、 あらゆる感覚をそれにまかせよ、 どんな…
彼らの観点――それは宇宙的だ。ここにいる一人の人間や、あそこにいる一人の子供は目に入らない。それは一つの抽象概念だ――民族、国土。民族 [フォルク] 。国土 [ラント] 。血 [ブルット] 。名誉 [エーレ] 。りっぱな人びとに備わった名誉ではなく、名誉その…
しかし、ほかのなによりも、彼が最初に惹きつけられたのは、ジュリアナのへんてこりんな表情だった。これという理由もなく、ジュリアナは見ず知らずの他人にも、尊大で退屈そうなモナリザの微笑であいさつするものだから、むこうは一瞬虚をつかれ、ハローと…
彼の手は忙しく筮竹をあやつり、彼の目は食い入るように爻を見つめた。これまでにもう何度ジュリアナのことで易に問いかけたことだろう? さあ、卦が出たぞ。植物の茎の受動的な偶然の作用によって生まれたパターン。それはランダムではあるが、しかし、彼の…
ちくしょう、なんてことをしやがったんだ、と彼は思った。死に絶えた部族の亡霊たちが浮かばれないぞ。彼らが抹殺されたのは、なんの国を作るためだ? だれにわかる! ベルリンの大建築家どもさえ、ひょっとしたら知らないかもしれない。自動人形の集団が、…
ディアクロニーとはさしあたり、「時間的な〈以後〉が同時に [﹅3] 時間的な〈以前〉」となるような反転した時間性のことである。およそ想像もつかないこのような時間のあり方が要請される第一の理由は、他者との関係にある。時計で計られるような通常の時間…
「言語」もまた、それによって他者から語りかけられ、他者へと伝達されるものであるかぎり、言うまでもなく他との関係をめぐる問題である。「固有名試論」(『現代思想』に連載・未完)が、分析哲学から言語学、文化人類学まで該博な知見を整理しながら、鮮…
私はつねに他者の現在に遅れて [﹅3] いる。他者と私はけっして時間的現在を共有することがない。「おなじ現在にとどまり、時間を共有し、私に再 - 現前化可能であること」の否定のうちに「他者の自由」がある(24/33)。それは、「現在をとおり過ぎ・現在を…
気づいたとき、他者がすでに呼びかけている。他者による「召喚」がつねに先だつ(138/166)。召喚に応じないとき、つまり応答しない場合でも、私はすでに諾否の選択肢のてまえで [﹅4] 応答してしまっている。呼びかけを叫びとして、叫びを声として聞きとっ…