2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/12/31, Sat.

不意に列車が急カーブを切ったかと思うと、谷がひらけて、いくぶん見晴らしのきく場所に出た。と、真正面に、なだれ落ちる黒い森にはさまれて、切り立ったエメラルド色の壁が見えた。垂直にそそり立ち、宝石にも似たきららかな輝きを放ち、暗鬱な背景のなか…

2022/12/31, Sat.

不意に列車が急カーブを切ったかと思うと、谷がひらけて、いくぶん見晴らしのきく場所に出た。と、真正面に、なだれ落ちる黒い森にはさまれて、切り立ったエメラルド色の壁が見えた。垂直にそそり立ち、宝石にも似たきららかな輝きを放ち、暗鬱な背景のなか…

2022/12/30, Fri.

まさにそういう切り立った草地を見たあの遠雷の夏の日を、わたしは決して忘れないだろう。あの日は朝早くから、延々と広がる埃っぽい平野を移動していた。列車のなかは息苦しいほど暑いうえに、外の景色は単調で色彩に乏しく、昼過ぎからはずっとうつらうつ…

2022/12/29, Thu.

旅先でわたしはいつもかならず不思議な草地と出くわす。これはどうあっても逃れられない運命らしい。どんな旅だろうと、どこから出発しようと、最後はたいてい黄昏時にその草地があらわれて終わるのだ。草地といってもごく小さくて、斜面にあって、近くには…

2022/12/28, Wed.

今帰ったところです、フェリーツェ、だから相当遅いのですが、あなたに書かずにはいられません。ぼくはあなた以外のことは考えないし、旅行中見たすべてのものはあなたと関係があり、すべてのものの印象はこの関係が好ましいか否かできまります。ぼくらはま…

2022/12/27, Tue.

もう遅いのです。ぼくはマックス夫妻やヴェルチュとイディッシュ語の劇を見にいきましたが、あなたに数行でも書くため、終る前に急いで帰りました。このことが許されているという、なんとすばらしい感情! ぼくには書いている夜しか対抗できぬこの途方もない…

2022/12/26, Mon.

ぼくの今日午後の手紙は、裂きかけられて着くでしょう。ぼくは駅にいく途中、あなたに真実に明瞭に書けないことで無力な腹立ちをおぼえ、それを裂きかけたのです。ぼくがいくら試みても、真実に明瞭に書けず、だからいくら書いてもあなたをしっかりと摑まえ…

2022/12/25, Sun.

(……)ぼくは工合がよくありません。ぼくを生と正気において維持するため必要としている力を傾注すれば、ピラミッドを建設することもできたでしょう。 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一…

2022/12/24, Sat.

(……)ぼくの主要目的は、数時間自分を自己苛責から解放すること、ぼくが捉えようとすると文字通り飛んでいってしまうオフィスの亡霊のような仕事とは反対に――あのオフィスには本当の地獄があり、他の地獄はもう恐しくありません [「あの」以降﹅] ――のろま…

2022/12/23, Fri.

お分りですか、最愛のひと、あなたへのぼくの関係が意味している幸福と不幸のこの混合は(幸福とは――あなたがぼくをまだ見捨てず、見捨てるようなことがあるとしても、一度はぼくにやさしかったから。不幸とは――ぼくは、あなたがぼくにとって意味する自分の…

2022/12/22, Thu.

(……)あなたに書かない場合、ぼくはあなたのずっと近くにおり、ぼくが通りを歩き、至るところで絶えずなにかであなたを思い出す場合、ぼくひとりで、または人中でお手紙を顔に押しつけ、あなたの頸の匂いでもあるその匂いを吸いこむ場合、――そのときぼくは…

2022/12/21, Wed.

ぼくの今日の眠り全体には、今日はお手紙が来ないという考えが、実にさまざまな関連をもちながら、一杯に滲透していました。事実お手紙は来ないで、ぼくは女中の言葉を理解する前に、それを喉元に感じていました。あなたを手紙を書くことから解放してあげる…

2022/12/20, Tue.

(……)もしぼくが、最愛のひと、明日からあなたに日記のような報告を送るとすれば、それを喜劇と思わないでください。そのなかには、たとえあなたが優しく静かに居合わせたにしても、ぼくがただ自分にしか言えないようなこともあるでしょう。あなたにあてて…

2022/12/19, Mon.

(……)ただお便りが来ないことに対しては、ぼくの以前からの神経過敏は変りません。ぼくには信頼感が全く欠けています。ただ良く書いている時だけ、それがあるので、そうでないと世界はその巨大な歩みを全くぼくとは反対に進めるのです。ぼくはいつもお手紙…

2022/12/18, Sun.

(……)ぼくはあな(end316)たを至るところで探し、路上の極めてさまざまな人間の小さな動きが、相似と対照によってあなたを思い出させますが、ぼくは自分をそれほど満たしているものを言い表わせません。それはぼくを一杯に満たし、それを言う力を残さない…

2022/12/17, Sat.

「あなたがわたしから奪われるかもしれないという感情」――どうしてぼくがそれを持たないわけがありましょう、最愛のひと、ぼくが自分にその権利を否認しているのだから(しかし「権利」は弱すぎ、「否認して」は弱すぎます!)、ぼくは自分に、あなたを保持…

2022/12/16, Fri.

あなたはぼくの嘆きについて書いています、「わたしはそれを信じませんし、あなたも信じてはいないのです。」 この考えは不幸であり、ぼくにその責任がないわけではありません。ぼくが嘆くことにおいてある熟練に到達したことは否定できません(残念ながら最…

2022/12/15, Thu.

こんなに遅くなりました。ぼくは終るずっと前に出てしまったのですが、それはただぼくの果しない疲労のせいばかりでなく――ぼくの頭は今日一日中ぼくが眼を閉じるのを物狂おしく待ち望んでいます――また、みんなが分れて行く前に、強固な集合体から逃れるのが…

2022/12/14, Wed.

先だってあなたは、ぼくの伯父の手紙に関連して、ぼくの計画や見通しについて質問しました。ぼくはその問いに驚き、いまあの知らない男の問いをきいて、また思い出しました。もちろんぼくは全く計画をもたず、全く見通しもありません。未来へとぼくは歩いて…

2022/12/13, Tue.

その代り午前はすばらしいものでした。まだ朝オフィスに行くときは、すべてがぼくにはひどく厭わしく退屈で、別に時間が遅くもなかったのに、途中突然少しの距離を走りはじめましたが、それもただ世界の厭わしさを少しでも動かし、それでもっと耐え易くする…

2022/12/12, Mon.

遅い、遅い。またいろんな人と無用の晩を過しました。支えがないと――ぼくはいま書いていないし、あなたはベルリンです――ぼくは人の思うところへ引きずられていきます。ある若い婦人がその小さな乱暴な男の子のことを話し、それはまだ一番ましな部類でしたが…

2022/12/11, Sun.

(……)自分がどんな状態か、自分自身のなかからどうして分るでしょうか。この嵐のような、または輾転とする、または泥沼のような内奥こそぼくら自身であり、しかし言葉がぼくらの内から駆り出される道程、ひそかに進展する道程において、自己認識が白日のも…

2022/12/10, Sat.

最愛のひと、今晩寒さのなかで(また風邪をひいたのでしょうか? 背中を本当の、あるいはただそんな気がするだけの悪寒が走ります)町をあちらこちらと通って、フラチーンを過ぎ、大聖堂を回り、ベルヴェデーレを過ぎる長い散歩の途上、ぼくは頭のなかであな…

2022/12/9, Fri.

今日の昼ぼくは穴があれば身を隠したいと思いました。つまり《三月 [メルツ] 》の新しい号で、マックスが書いたぼくの本 [『観察』] の書評を読んだからです。それが出るだろうとは知っていましたが、見ていませんでした。もういくつか書評が出ました。もち…

2022/12/8, Thu.

最愛のあなた、もうまた遅くなりました。なにもしおえないで、古い習慣から、降らない雨を待っているかのように、ぼくは目ざめています。 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、2…

2022/12/7, Wed.

昨晩はお便りしませんでした。『ミハエル・コールハース』のため遅くなったのです(あなたはこれを知っていますか? 知らなければ、読まないでください! ぼくが [﹅3] 読んであげます!)。もう一昨日読んでいた小部分は除いて、一気に読んだのです。おそら…

2022/12/6, Tue.

(……)だれか他の人をちらりと思い浮べることなしに、全く自分のことで絶望したことがありますか? 輾転反側するほど絶望し、最後の審判が過ぎるまでも横たわっていることが? あなたの敬虔さはどんなものですか? あなたはシナゴーグに行きますが、最近は行…

2022/12/5, Mon.

(……)たとえば今日ぼくがオフィスでどんな仕事をしたか、あなたがご覧になったら、頭を振るでしょう。ぼくは種々雑多な古いがらくたを机の上に置いています――しばらく前ほど多くはありませんが。というのも、その間仕事がかなりうまくいった一週があったの…

2022/12/4, Sun.

あるときぼくは、こんな状態にはふだん全く理解のないマックスに、次のことをほとんど完全に確信させることに成功しました――つまりぼくの状態はたえずひどくなるばかりで、だれも、たとえぼくをどんなに愛して、ぼくの間近に坐り、ぼくの眼を見つめて励まし…

2022/12/3, Sat.

しかしわれわれ二人の関係についての心配は、あなたは全然する必要はありません。昨晩 [マックス・ブロートと] 二人きりで喫茶店にいましたが、その時ぼくらが笑うのを御覧になりさえすればよかったのです。ぼくに対する彼の友情は不動であり、彼に対するぼ…