2014/1/22, Wed.

 Antonio Sanchez『Migration』を流しながら日記を書き終えると零時半を過ぎていた。Sanchezを途中まで聞いたあとにThelonous Monk "Just A Gigolo"を繰り返し聞いた。ひどく美しかった。これほど冬の夜の感傷的な気分に合う音楽もそうそうなかった。菓子をばくばくと食べたせいなのかそれとも餃子などという油っこいものを食べたせいなのかそもそも食事ではなくて最近の夜更かしが影響しているのか不明だが、布団に入る前からすでに身体中に爆発的なかゆみが生じており、昼寝によって眠気が減じられていたことともあいまって寝つくのにはなはだしく手こずった。とはいえ数日前には体表面をぼつぼつと覆っていた小さな発疹は消えてなめらかな皮膚の感触だし、掻いたその箇所もその直後はみみずばれのように赤くなるもののしばらく経てば元の状態に戻っているし、掻きこわした部分も着実に再生しているのであとは温冷浴を続けながら新しく皮膚が生まれ変わるのを待つだけの問題である。
 目覚めてアイマスクを外すと九時半で、寝床でTheo Hobson "Jean-Jacques Rousseau: as relevant as ever"(http://www.theguardian.com/commentisfree/belief/2014/jan/20/rousseau-compassionate-intense-relevant-philosopher)を読んでから起床した。ハムエッグを焼いて残り少ない米と豚汁とともに食べた。食事を終えて部屋に戻るとはやくも十一時近くをむかえているのを見て生活習慣をどうにかしなければなるまいと苛立った。
 やたらと歌を歌いたい気分になってscope『太陽の塔』を流して歌い、満足すると前述の記事から英文を抜き書いてノートに追加した。Weather Report『Black Market』を流しながら五十九の英文を音読し、つづけてガルシア=マルケス『族長の秋』を一三九から一五一頁まで音読した。Wayne Shorter『Narive Dancer』を流し、エキゾティックなにおいのするファルセットを聞きながら腕振り運動をおこない、ストレッチをし、アトピーになったこともあってさぼっていた筋トレを再開するべくダンベルで両腕の筋肉をほぐした。松平千秋訳『イリアス』の第十歌を読んで午後一時を過ぎると風呂を洗うために一瞬だけ階上にあがり、すぐに部屋に戻ってKenny Dorham『Una Mas』をかけた。ギュスターヴ・フローベール/渡辺仁訳『ブルターニュ紀行 野を越え、浜を越え』を一章だけ読んでHank Mobley『A Slice of the Top』を流し、三時まで無為に過ごすとリビングでシャツにアイロンをかけた。
 母が病院へ行って無人となったリビングのカーテンを閉め電気をつけて勝手口から出た。ipodは持たなかった。灰青色に染まる雲が一面に広がった空の先、家々の屋根の彼方には薄紫色がほのかに膜を成していた。今月で職場を去る同僚へ送別の言葉を書くように求められているのだがその文言を考えるのは意外とそこまで簡単ではないもので、批評めいた言になってしまったり表現がくり返してしまったり果ては漢字の開きはどちらがいいのかなどとこの場合には不必要な美意識までもが頭をもたげてきて、なかなか決定版というべきものをつくれずに歩いていると、前方から父親に先導されて来た児童のうちの一人、黄色の学帽をかぶった少年が、人面犬はね、あのね、人面犬をいじめるとね、自分が人面犬なんだよ! などと奇妙な論理を振りかざしながらすれちがっていくので思わず笑いそうになった。子どもというものは子どもであるというだけでおもしろい。
 右人差し指のあかぎれに目ざとく目をつけた生徒が親孝行してないんだ、と言ったが、あかぎれにまつわるそのような迷信ははじめて聞くものだった。季節柄教室のなかは腹が痛いだの気持ちが悪いだの頭が痛いだのなんらかの体調不良を訴える生徒が多く、そのなかの一人が寄ってきて願書提出の列に並んでいるときから気分が悪かったと至近で話すので風邪にしてもインフルエンザにしてもうつしてもらいたくはないものだと不安になり、無理にがんばるとかえって惨事を招くおそれがあるからだめだと思ったら帰るようにと忠告した。仕事が終わるとさっさと退勤して電車に乗った。四人並んで座る私服姿の中学生の話し声が車内の沈黙を破っていたがもっとも声高に無遠慮なしゃべり声をあげていた一人があとからやって来た一人にじゃれつかれると途端に勢いをなくし声は小さくなり態度もやや卑屈なものとなったその変化にある点では大人の世界のそれよりも厳しいものかもしれない中学生同士の力関係を垣間見た。あとから来た一人というのは塾の生徒だった。
 夕食は米、納豆、大根の味噌汁、野菜炒め、メロンパンだった。一月十八日より以前のブログ記事を削除した。また今日も帰宅してからは食事と入浴と日記だけで日付が変わろうとしており本を読む余裕はなかった。さっさと寝るに如くはなく夜更かしをすればするほど体調もそうだが精神の調和が失われていくことを肝に銘じるべきだった。