2014/2/3, Mon.

 途方もない寝坊をして十時半に起床した。夜更かしをやめられない身のあさましさである。とはいえ体の感覚自体はそう悪くはなく、最良とはいえずとも通常程度のまとまりを得ていた。カレー、大根の味噌汁、大根とシーチキンのサラダを食べたあとに、昨日父が帰りにコンビニに寄ったらしいのでどうせまたアイスでも買ってきているのだろうと冷凍庫を探れば、案の定安っぽく飾り気のない白一色の物体が何本か入っており、固くしまった長方形に前歯を埋めてその冷たさにしびれることになった。茶をついで部屋に戻り、EL&P『Live at Royal Albert Hall』を流しながらHさんの『惑星探査隊』を三十九頁の中途まで読んだ。NUMBER GIRL『NUM-HEAVYMETALLIC』を流しながらガルシア=マルケス『族長の秋』の七頁目を二回、八頁目を三回音読するとBGMをOAM Trio & Mark Turner『Live In Sevilla』に変えて、手足の爪を切り、ベッドに寝転がってくねくねと動いて体をほぐし、ストレッチをし、久々にダンベルで両腕の筋肉に少々の負荷をかけ、背筋もおこなった。母が買ってきたメロンパンを食べながら体重を量ると54.2キログラムだった。Virginia Woolf, Kew Gardensの音源を流してシャドーイングをしてから風呂に入った。
 空はいくらか白かったがもう春といってもいいほどの陽気でコートを着て歩いていると暑いくらいだった。下校中の男子高校生たちが馬鹿騒ぎをしながらかけていくのを見てうるさく思いつつもその屈託のない様子を好ましくも感じた。労働は比較的楽だった。明日が休みになるかわりに明後日に仕事が移った。週三日休めればまあよい。コンビニでマスクと電池と唐揚げ棒を買って帰った。ipodを忘れてWoolfを聞くことができなかったが、手にさげたビニール袋の揺れる音が響くような静けさのなかを歩くのも悪くはなかった。住宅地のなかにいくらか広い空き地がぽっかりとあり、建物がないため空がみやすいのだが、そこから見上げた夜空は吸いこまれそうな黒をたたえていて、昼間の青空よりもさらに広く果てしなく見えた。その黒のなかに一箇所穴をあけるように、赤みがかった細い月が笑みの形に曲線を描いていた。
 夕食をとって風呂に入ったあとはUA『ハルトライブ』を流しながらVirginia Woolf, Kew Gardensを私訳しはじめたが、おそろしいことに、比較的息の長い文章とはいえ一文訳すのに三十分以上かかっていた。意味自体をとることは二つの先達の訳もあるし、一部を除けばそこまで難しくはないが、その意味を自分の感覚としてきちんとつくりあげられた日本語におとしこむのが果てしなく難しく、ほとんどちがいのない細部のバリエーションにひたすら悩み、つくった訳を何度も読み返し、細部を変更し、また読み、そうしてできた文章も本当に日本語としていいものになっているのか判別がつかず、端的にいって苦行であり、このような難行を仕事にしている翻訳家とはおそろしい職業である。